少女の憧憬

未羊

読み切り

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 光り輝くようなステージに立ち、大勢の観客を前に熱唱する自分。

 アイドル。それが私が小さい頃から見ている夢だった。

 今の私は中学生三年生。

 小さい頃は想像して楽しむだけだったけど、高校受験を控えた緊張からか、現実逃避のように寝ている間にアイドルになった夢を見るようになっていた。

 ただ問題点が一つあった。私は音痴だ。

 音楽の授業でも、私が歌うとみんなは笑ったり嫌な顔をしたりしていた。


(音痴な私がアイドルなんて、絶対変よね)


 夢を見ていながらも、現実では諦めかけていた。

 気持ちが落ち込んでいたある日のことだった。私はあるものと出会う。

 それは、大規模な配信サービス会社の動画を見ていた時だった。


「アバターを使った配信者?」


 たまたま、おすすめとして出てきた動画に、とても興味を引かれた。

 アニメや漫画のようなキャラクターを使って、動画を配信するというものがあるらしい。

 私はごくりと息を飲んだ。

 これなら、歌を歌えなくてもアイドルになれるかな。私はひそかに考え始めた。

 思い立った私は、パパに相談をする。絵は自分で用意するから、どうにかアバターを動かせるようにできないかと。

 悩んだパパは、知り合いに相談をしてくれることになった。

 元々イラストを描くのは好きだった。自分が使うアバターだからと、自分の趣味を詰め込んだ。三面図や細かい設定を描き上げると、私はパパにすべてを託した。

 もちろん、高校受験にも全力投球よ。パパが知り合いに頼み込んでいる間、私は受験勉強を頑張った。

 そうして、高校受験をひと月後に控えた時に、頼んでいたモデルが届く。

 表示されたアバターのできばえに、私は胸を躍らせた。

 入学祝いを前借して買ってもらったモーションキャプチャを使って、私は早速アバターを動かしてみる。ちゃんと自分の動く通りに動く。すごい。


「ありがとう、パパ」


 私がそういうと、パパは顔を真っ赤して嬉しそうにしていた。あっ、海外赴任中のママには内緒だよ。


 高校受験を無事に終えた私は、本格的にアバターを使った配信者としての活動を始める。

 高校も無事に合格して、気持ちも楽になる。

 これはとあるアバター配信者の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女の憧憬 未羊 @miyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説