第34話 ダスティン・ヘイルズ

『まあいい、せいぜい裏切ったことを後悔しながら死ぬんだな』


 彼がいうのと同時に、10機ほどの新たなスピアが彼の後方から現れ、同時に彼もこちらに突っ込んでくるのできた。


「リュエル、来るよ!」


 そうリンが言うのとほぼ同時にスピアのうちの一機が斬りかかってきた。もちろん、この程度は簡単に防げる。ブレードで防ぎ、押し返しそのまま追撃をしようとしたところで別の機体がビームを撃ってきた。すぐさま、撃ってきた方へ向き直り盾で防御する。そのままビームライフルで撃ち返すも避けられる。さらに他の機体が攻撃してきて、さらなる追撃はさせてくれない。


「ち、めんどくせぇな」


 エクステンデッドほどではないほどのかなりの連携精度だ。倒すのには時間がかかる………。それにアイクさんたちも攻めあぐねているようだ。ダスティンのことを警戒し大きく行動できないのだろうか?


………まて、ダスティンはどこだ?このスピアたちと一緒に向かってきたはず………

……まさか!


「!リュエル!」


 リンの声を聞き、直感的に後ろを振り向く。


『お前が一番弱そうだな』


 すると突然、今までより鋭い攻撃が私に向かってきた。…………おそらくダスティンだろう。他のスピアに私たちを攻撃させ、その間に誰が一番弱いのか見極めたのだろう。


「ち、速い!」


 やはりAランク級の実力があるというのは本当だったのか、避けることはできたもののギリギリだった。


『流石に、避けるか。だが、次はどうかな?』


 完全に私狙いになっている。何回も何回も攻撃してくる。ダスティン単体なら反撃する隙自体はあるものの他のスピアまで攻撃してくるため防戦一方だ。


『おっと、シルバーバレット。テメェの相手は俺じゃねぇ』


 助けに入ろうとするフリジアさんに対し他のスピアが足止めする。


『お前ら、残りの二人を全力で足止めしろ』


 しかも、そのまま私はアイクさんとフリジアさんと離されてしまった。ダスティンの斬り払いを機体を後ろに滑らせ避ける、追撃して来るダスティンの攻撃をブレードで受け止め機体出力に身を任せ押し返す。


 しかし、押し返されながらダスティンはマシンガンで攻撃、致命打ではないものの、少し装甲を削られてしまった。


 さらに、再び接近して来るダスティンに対してジェスターで攻撃するも全部避けられそのまま間合いを詰められる。


「ちっ!」


 振り下ろされたブレードに対して、両肩のジェスターのシールドを展開しなんとか防ぐ、しかしその衝撃で少し吹き飛ばされてしまう。


 追撃を仕掛けて来るダスティンに対してレール砲を撃つことで避けさせ、こっちもその反動で距離を取り、仕切り直す。


「くっ!…………このままじゃジリ貧だ!なんとかしないと………!!」


 取り巻きのスピアがいなくなった分、反撃するタイミングがあるにはあるが操縦技術の差でこのままでは完全にジリ貧。何かしらの策を考えなければならな……………


 いや違う。いま、私がするべきことは………ひたすら耐える。ジリ貧でもいい、二人のうちどちらかが来るまで耐えることだ。


 攻撃を交わし防ぐ、致命打でなければ最悪喰らってもいい、考えるべきは反撃ではなく耐えること。


『ち、耐えやがる…………だが、まだ時間は』


 “まだ時間はある” そうダスティンが言いかけた時、突然ダスティンに対しミサイルが飛んでくる。ホーミング機能だけでは説明できない複雑な軌道を描いて飛んでくるミサイル……………フリジアさんのミサイルだ。


『ダスティンは私がやります、あなたは下がっていてください』


 この一瞬の攻防の間に他のスピアを振り切ったであろうフリジアさんが私とダスティンの方へと向かって来る。………それにしてもかなり早いこの時間なら倒せても

1、2機だと思うのだが………


『おいおい、早すぎだろ………!!』


『残りの相手は双銃に任せてきました。あなたはそこで見ていてください』


 どうやら、ダスティンの方も同じことを思ったようだが、まさかアイクさんに全部任せてきたとは。しかも、私は下がって見ていろと言われる。……………しかし、そう言われて納得できるか?と言われたらそんなことはない。


「いや,私もやる。最初にこいつと戦い出したのは私だ」


 ここは、私も意地を通すべきだろう。


『…………まあ、いいでしょう。ついてきてくださいね』


 なんとか納得させられたようだ。二人並んでダスティンの前に立つ。


『くそが!やってやるよ!!』


 そう叫ぶとダスティンはこちらに向かって突っ込んでくる。…………やはり私狙いだ。………なら!


『引き付けておいてください』


 そう、フリジアさんに言われる。だが言われなくてもそのつもりだった。

焦っているのかダスティンは単調な連撃を繰り出して来る。ダスティンの連撃をブレードで弾く、弾く、弾く。そして、4撃目、このタイミングで私はダスティンの機体を蹴り飛ばす。この3回の攻撃をすべて弾いていたのはタイミングを見極めるため、一瞬だけ攻撃が緩んだそのタイミングで蹴り飛ばしたのだ。


「喰らいやがれ!!」


 そのまま間髪入れずにレール砲を撃ち込む。が、そこはAランク級、盾で防御されてしまう。だが、この近距離でエスフィスタM238を喰らったのだこれでおそらく盾は使い物にならなくなった。最低限の仕事はこなせた。あとは…………


『よくやりました、あとは私が』


 ……フリジアさんに任せよう。


 半壊した盾を捨てたダスティンに対してフリジアさんがミサイルで攻撃、もちろん、ダスティンはそれを避ける。いくら多少の弾道操作ができるとは言えほぼ同格の相手なら避けるだろう、この攻撃はあくまで牽制だろうとリュエルは思っていた。しかし………………シルバーバレットの異名がつけられた理由をリュエルは知っていなかった。


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 ダスティン・ヘイルズはいわゆる、悪人である。………自分の利益だけを考え、他者を利用し陥れることに対してなんの罪悪感も抱かないそんな人間。そんな人間だ。


 だから今回の件でも、すぐさま逃げることに対して躊躇はなかった。例え自分が『スネイク・ホープ』の最高戦力だとしても。


 だが、同時に彼はプライドが高かった。彼は直接戦ったわけではないにしろ負けたままなのが嫌だった、エクステンデッドを下したという白い機体の小娘、そいつだけは倒しておきたかった。欲を言えば双銃や裏切ったシルバーバレットも倒しておきたかったところだが、彼は自分の実力を理解していた。だからリュエルだけを狙った。


 自分の部下を捨て駒にし、双銃とシルバーバレットを足止めした、そして一対一でリュエルを下しそのまま逃げる………完璧な計画のはずだった。………彼がリュエルの実力と才能を甘く見ていなければ。


 彼の予想以上にリュエルは粘った。迂闊に反撃せずひたすら耐えた。

もちろん、シルバーバレットが来るのが想定より早かったのもある………が、結局はリュエルの実力……いや、土壇場での成長と才能を甘く見ていたからだ。


 そして、倒しきれなかったことに怒りを燃やし後先考えずにリュエルに向かって突っ込んでいった。しかし、完璧に対応され縦まで壊された。


 そこで少しだけ冷静になったダスティンは逃げることにした。ダスティンに向かって飛んでくるシルバーバレットのミサイル、いくら弾道が多少操作できてもAランク級の実力がある彼がそれを避けるのはそこまで難しいことではない。そして避け、逃げようとした。



 ………が、それができなかった。


 彼が最期に見たのはまるで避けられるのを想定していたかのように地面に着弾したミサイルと、その爆炎の中から突っ込んできた銃を構えた白い機体だった。


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〜あとがき〜

なぜ弾道操作するミサイルの使い手なのに異名がシルバーバレット?と思った方もいたと思います。…………なぜ彼女がシルバーバレットと呼ばれるか、その理由が分かりましたか?




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