同じ鐘が鳴り響く

石田空

ループループループ

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 いつも夢の中で、教会の鐘の音を聞くのだ。私はその音を聞きながら、必死で走っている。頑張って走っても走っても足はもつれ、スカートが貼り付き、だんだん動きが鈍くなっていく。

 影が伸びる。その伸びた影の向こう側に、男がいた。

 顔にも影がかかって見えない。ただ私は喉を突っ張らせていた。喉が突っ張ると声が出ず、逃げるしかないんだ。

 こちらに手が伸びてきた。


「また、捕まってしまう……」


 そこで夢が終わるのだ。


****


「あの夢、なんだったんだろう」


 こう何度も何度も同じように男に捕まった瞬間に目が覚めてしまうと、気になってしまう。

 そのせいで、地元にある教会の鐘の音が怖くなって、なるべく教会の見えない道を通って帰るようになったものの、ある日下校しようとしたら、先生に言われてしまったのだ。


「ごめん、田中さん。ちょっとクラスメイトの山並くんの家にプリントを届けてくれないか?」

「えー……」

「君の帰り道にある家だから、そこまで時間はかからないと思うけど」


 先生が行ってくれよとも思ったものの、先生の顧問の部活が、現在進行形で全国大会に向けての練習真っただ中なんだから、先生も部活のほうを優先させたいんだろうと、諦めることにした。

 私はできる限り早くプリントを渡して帰ろうと思った。

 田中くんは気の毒に流行病が原因で登校禁止を食らっている。テスト期間までに帰ってこられるといいけれど。

 私は彼の家のポストにプリントを突っ込むと、急いで帰ろうとした途端に。

 鐘の音が響いた。


「あ…………」


 喉が渇いていく。だとしたら。

 カツカツと見えない足音が響いてきた。私のほうに真っ直ぐ近付いてくる。私はそれに踵を返すと、必死に走りはじめた。

 誰、なに、どうして。

 家のほうに必死に走る。

 交番はパトロール中らしく、詰めている人が見当たらない。

 そういえば。本来なら放課後なのに、どうして人が誰もいないんだろう。

 男がこちらに走ってきた。

 助けて! 助けて! 助けを求めたくても声が出ない。

 やがて、足がもつれてとうとうこけた。男が私のほうに真っ直ぐ手を伸ばしてくる。

 いったいなんなの! 本当に嫌!

 私の悲鳴は、届かなかった。


****


 目が覚めたとき、またしても家だった。

 本当になんでこんなに怖いことばかり続くのか、誰か教えてほしい。気が狂いそうになるんだから。私は頭を抑えた。

 学校をしばらくサボればいいのに、なぜか私はその発想がみじんも出なかった。

 どうしてなんだろう。


****


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<了>

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