夢の中に現れたのは
烏川 ハル
夢の中に現れたのは
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
暗いトンネルを一人で走り抜けていく夢だ。
出口の先が雪国ならば、昔の有名な文学作品の模倣だが、そうではない。
トンネルを抜けると緑の草原で、真ん中に誰かが立っていた。
ただし顔どころか服装も体格も曖昧。性別すらわからない。
正体を見極めようと、目を細めながら、さらに近づいていくが……。
いつもそこで目が覚めてしまう。
あれは誰だったのかモヤモヤした気持ちになり、寝覚の悪い朝を迎えるのだった。
そして9回目の昨日に続き、今夜も同じ夢を見る。これで10回目だ。
真っ暗な中を一人で駆けるのも、トンネルを出たら草原なのも、誰かいるのも同じ。
しかしその先は違う。問題の人物の輪郭が少しはっきりしているのだ。
どうやら男性らしい。中肉中背で、マントのようなものを羽織っている。
「よし、正体を突き止めてやる!」
自分に宣言しながら、私は男に向かっていく。
ある程度まで近づき、男の顔を認識したところで、私は「あっ!」と叫んでいた。
すると相手はニヤリと笑い、叫び返してくる。
「これがトリの降臨だ!」
……そこで目が覚めた。
気づけば私は布団の中でなく、机に突っ伏した状態。PCもスイッチが入ったままだ。
PCで作業中、寝落ちしてしまったらしい。
しかし、これが幸いしたのかもしれない。いつもと違う変な寝方だった影響で、夢の中身まで少し違うパターンになってくれたのかもしれない。
「結局、私は……」
呟きと共に苦笑いしながら、顔を上げると、部屋の片隅にかけたままのタオルが視界に入る。
一年くらい前、抽選に当たって送られてきた、トリを模した特製タオル。フード付きなので、タオルというよりトリの格好をするためのマントという感じもする。
夢の中で男が羽織っていたのと、同じものだった。
続いて、視線をPC画面に戻す。
画面上にあるのは、私が登録している小説投稿サイトのイベントページ。イベントの執筆ルールの一つには『エピソード内に「トリの降臨」のフレーズを含んでください』と書かれていた。
「……これが気になってたから、あんな夢を見てたんだろうな」
草原でトリに扮していたのは、私と同じ顔の男。つまり私自身だったのだ。
(完)
夢の中に現れたのは 烏川 ハル @haru_karasugawa
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