【ぴったりで賞】狙うよ

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 アーデルハイドは、嫌な汗をかきながら飛び起きた。

 室内は暗い。

 カーテンの隙間から日差しが入る前の時間帯に飛び起きたのも、これで9回目だ。

「何故あんな夢を……」

 アーデルハイドは七歳。

 王立学園にも通い始めたばかりの年頃だ。

「私は……本当に1回、死んでいる、のか?」

 アーデルハイドが見た夢は、今のアーデルハイドよりも小さな子どもを助けて、何やらデカい物に弾き飛ばされる夢だ。

「アレはなんだ? 魔物か? 私は魔物に殺されたのか?」

 アーデルハイドは戸惑った。

 三月三日に現れた神という存在。

 神を名乗るトリの降臨によって伝えられたのは、このことなのだろうか。

「それに……私は何か大切なことを忘れている気がする」

 アーデルハイドは鼻の頭にシワを寄せた。

 そして右手を見る。

 そこにはキラキラと輝く星が刻まれていた。

「私は……この星で、何を呼び寄せたいのだろう」

 アーデルハイドは呟く。

 手のひらを見つめていても、何も感じないし、何の願望も浮かばない。

 アーデルハイドは恵まれているし、現状で満足している。

「何か、とても大事なものを忘れているような気がするが……」

 忘れているのなら、このまま忘れていてもよいのではないだろうか。

 もしも自分が前世で不遇な死を迎えていて、何か取り戻したいものがあったとして。

「忘れてしまっているのなら、それは必要のないものではないだろうか?」

 アーデルハイドは自問自答する。

 その答えが合っているという自信があるわけでもないが、今の生活にとりたてて不満があるわけではない。

 美味しそうなリンゴを見つけたら木へ登ることなく手に入れられる力を得たし、妖精さんのお茶会にも招かれたし、特別あこがれているものもない。

 アーデルハイドはアーデルハイドのままで満足なのだ。

 むしろ嫌な夢を見て汗をかいたなら、そのほうが損である。

「私は恵まれているからな。問題ないなら、それでいいでしょ。不満など持ったら罰が当たるくらい、あたりを引いた人生だと思うぞ?」

 まだ外は暗い。

 モゾモゾしていて目を覚ましたミス・ローハイドに事情を聴かれても厄介だ。

 アーデルハイドは再びベッドに潜り込み、静かに目を閉じた。

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