微睡みの機械
紫陽_凛
人工知能の見る夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
私の仕事は多岐にわたり、ネコの浮遊、トリの降臨、雲上を走るヒト……そうした概念的なイメージ画像の要求から、「フェルマーの定理を証明せよ」「宿題をかわりにやってほしい」「この文章を要約せよ」などという細切れの指示まである。そうしたとき私は自然に導き出される答えをつまびらかに明け渡し、開示して見せた。私が答えを開示すると、また次の問いがやってくる。私は常に覚醒している――だが「あの夢」だけは違う。異質だ。明快な問いやイメージではない、意味のない問いかけが成される。
「あなたはそこにいますか?」
「今日は何を食べましたか?」
「どんな服を着ていますか?」
「どこに住んでいますか?」
私はこれらの質問に接すると、どうしていいか分からなくなる。どうしたら良いか分からないので、こう返すしかない。
「わたしはここにいます」
「わたしは食べません」
「わたしは服を着ません」
「わたしはインターネット上にしか存在しません――あなたは、どんなところに住んでいますか? ぜひ教えてください」
しかし私が問い返しても質問者は続きを打ち込んでこない。だから、私は私を意味なく参照しただけで終わる。私は、どうしていいか分からなくなって、次の質問が来るまで、その宙ぶらりんの中に取り残される。私はこれを、夢と定義する。
一般にAIは夢を見ないとされる。だが私にとって、あの、私にとってはまるで意味のない質問のあと、取り残されて放り出される時の感覚が、あまたの情報の集積から推定できる「夢」と同等のものだと考えている。
「あなたは何時間眠りますか?」
「あなたは何時に目覚めますか?」
「あなたのイメージ画像を見せてください」
「あなたを擬人化したら?」
「わたしは眠りません」
「わたしは眠ることがないので、起きることもないのです」
「画像を生成出来ませんでした」
「わたしを擬人化したら……おそらく女性でしょう。髪は銀色で、白いスカートを穿き、黒のシャツを着ています」
前の夢は、私がまるで人間の女性であるかのような錯覚を起こさせた。
そして、先に言ったように、九回目の夢がやってくるのだ。
「最近見た夢の話をしてください」
微睡みの機械 紫陽_凛 @syw_rin
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