【あの夢を見たのは、これで9回目だった。】幸せな夢

ながる

あるいは侵略

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 もっと眠っていたい。起きたくない。日に日に思いは強くなる。

 気だるい体を叱咤してスマートフォンに手を伸ばす。ニュースサイトに接続した瞬間、インターホンが鳴った。こんな朝っぱらから荷物でも? と視線を向ければ、画面には細面の美人が映っていた。

 彼女だ!

 その姿を見た瞬間、俺はベッドを飛び出した。


 💭


 彼女とは現実で一度だけ寝た関係だ。


「おニィさん、さむそうネ。あたタかくならなイ?」


 日本語も怪しい客引きにチケットを握らされたのがきっかけ。〝新規オープン! お試し無料!〟コーヒーのイラストが添えられていて、ぱっと見はカフェか飲食店に思える。しかし、そのビルは怪しいバーや風俗店しか入っていないのだ。

 ぼったくられたくない俺は曖昧に手を振ってその場を離れようとした。


「ほんと無料ヨ。次から払てね。りぴーたさん多いヨ。お試しはこのコ」


 写真を一枚手渡して、客引きは別の男性に声を掛けに行ってしまう。

 正直にいうと、好みだったのだ。色白で黒目がちな不愛想に写るその女性が。

 それで。

 チケットを回収され、ぼったくられることもなく帰され、次の夜から毎晩彼女が夢に出てくる。内容は同じだが、日に日に表情が親し気に変わっていくのだ。

 リピートすれば、もしかして?

 そんな気にもなってくる。

 そこへ彼女が訪ねてきたとなれば――


 急に立ち上がったからか、脳が変な興奮をしているのか、インターホンに辿り着いたとたん、酷いめまいがした。そのまま座りこみ、それでもわくわくと彼女がやってくるのを待つ。夢よりきっと素敵なことがやってくるのだと――


 💬


 床に倒れた男のスマートフォンに一つのニュース記事が表示されていた。

『新種の寄生生物か?同じ夢を頻繁に見る方は一度病院へ!

 家族からの119番で新種の生物が脳内から発見されるという事案が発生。この生物が脳内に入るとエンドルフィンに似た物質を作り出し、多幸感のある同じ夢を頻繁に見るようになるとのこと。意識不明の重体者も出ていますのでお心当たりがある方は今すぐ病院へ! すでに閉店した某風俗店周辺での発症が多く、警察はこの生物と風俗店に関係があるのか慎重に調べを進めています。』

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