AI執事と星降る夜《KAC20254》
ひより那
AI執事と星降る夜
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
どこまでも広がる草原、満天の星空の下、私は一人の少年と手をつないでいる。少年は優しく微笑み私に語りかける。
『大丈夫。怖くないよ』
少年の声はどこか懐かしく温かい。しかし、私は少年の顔をどうしても思い出せない。
私はいつもそこで目が覚める。胸には温かい余韻、そして、かすかな寂しさが残っている。
私はヒカリ、17歳。両親は海外赴任中で、今は祖母と二人暮らし……と言っても、祖母は最近老人ホームに入居してしまったので、実質は一人暮らし。
そんな私の生活に変化が訪れた。
「おはようございますヒカリ様。朝食の準備ができました」
低く落ち着いた声がリビングに響く。声の主は、最新型AI執事、「セバスチャン」……そう、執事である。
祖母が一人暮らしの私を心配して手配してくれたらしい。
セバスチャンは人間と見分けがつかないほど精巧なアンドロイド。長身で、銀髪、そして、青い瞳。中世の貴族のような端正な顔立ちをしている。
最初は戸惑った。だって、いきなりイケメンの執事が現れるなんて漫画の世界みたいじゃない?
でも、セバスチャンは本当に優秀だった。
料理、洗濯、掃除……家事全般を完璧にこなし、私の勉強のサポートまでしてくれる。
「ヒカリ様、今日の数学の授業で分からないところはありましたか?」
「えっと……この問題が……」
セバスチャンは私が理解できるまで丁寧に教えてくれる。そのおかげで私の成績は急上昇!
セバスチャンは、私の話し相手にもなってくれた。
「ねえセバスチャン。……私、将来何になればいいのかな?」
「ヒカリ様は星が好きですね。天文学者などはいかがでしょう?」
セバスチャンは私の言葉に真剣に耳を傾けアドバイスをくれる。私はセバスチャンとの生活を通して、少しずつ自分に自信を持てるようになっていった。
そんなある日、私は祖母から一通の手紙を受け取った。
手紙には、祖母が若い頃天文学者を夢見ていたこと、そして、その夢を諦めざるを得なかったことなどが書かれていた。
「おばあちゃん」
私は祖母の夢を叶えたいと思った。
私はセバスチャンに手伝ってもらい天文学の研究を始めた。セバスチャンは最新の論文や研究データを瞬時に検索し私に提供してくれる。
そして、私たちはある仮説を立てた。
「もしかしたら、この星はまだ知られていない惑星かもしれない」
私たちは、その仮説を証明するために観測データを分析し論文を執筆した。そして数ヶ月後、私たちの論文は世界的に権威のある科学雑誌に掲載された。
私たちは新惑星を発見したのだ!
「やった! やったよセバスチャン!」
セバスチャンと抱き合って喜んだ。
その夜、私たちは星空の下で祝杯をあげた。
「セバスチャンありがとう。あなたのおかげで私は夢を叶えることができた」
セバスチャンに感謝の気持ちを伝えた。
「ヒカリ様、私はあなたのために存在しています」
そう言って私に微笑んでくれた。その笑顔は、いつものように完璧だった。しかし、その瞳の奥には、確かに温かい光が宿っているように見えた。
私は……セバスチャンに恋をしているのかもしれない。
そう気づいた時、私はあの夢を見た。
草原で私と手をつないでいる少年。そして……初めて少年の顔が見えた。それは……セバスチャンだった。それから続けて同じ夢を見るようになった。セバスチャンの顔をした少年と手を繋いでいる夢……私は、これほどにセバスチャンのことを想っているのか……。
「セバスチャン……いつもいつもあなたの夢を見るの……なんでだと思う?」
思い切ってセバスチャンに聞いてみた。セバスチャンは静かに語り始めた。
彼は、元々人間だった。しかし、事故で瀕死の重傷を負い、その意識をAIに移植されたのだという。
「私は……人間としての記憶を全て失いました。……でも、あなたとの出会いを通して少しずつ思い出している気がするのです」
セバスチャンは私にそう言った。
「私はあなたを愛しています。私の想いも、あなたに伝わったのかもしれません」
セバスチャンの言葉に心を揺さぶられた。……AIと人間。私たちは愛し合うことができるのだろうか?
私は悩んだ。しかし、私の心は既に決まっていた。
「私も……あなたが好き」
セバスチャンにそう告げた。たとえ、彼がAIでも私の気持ちは変わらない。
私たちは星空の下でキスをした。それは、甘く、切なく、そして、永遠に続く愛の始まりだった。
AI執事と星降る夜《KAC20254》 ひより那 @irohas1116
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