【KAC20254】魔王の悪夢とエンプーサのいい夢
龍軒治政墫
魔王の悪夢とエンプーサのいい夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
俺様――魔王が勇者に倒される夢。
勇者の噂は聞く。
手下が倒された話も聞く。
だが、まだ会ったことは無い。
夢でも顔が見えない相手に怯えてる?
(まさか)
と思うが、それを否定する全身の汗。
やはり怯えている?
「うぅーん……どうしたの?」
横の一糸まとわぬ夢魔エンプーサが、身体を起こして訊く。
俺様の動きで、目覚めたようだ。
「イヤな夢を見た」
「あら。それなら私がいい夢を見せようか?」
「俺様を食べる気か?」
エンプーサは相手を眠らせ、いい夢を見せる間に食べる夢魔。
それはよく知っている。
「逆に私を食べたのに?」
「悦んでいただろ?」
「まぁね。じゃあ、もっといい夢見てみる?」
エンプーサは俺様の身体に細い指を這わせた。
湧き上がる感情が、抑えきれない。
「見せてくれ」
「キャーッ」
エンプーサをベッドに押し倒すと同時に、扉が勢いよく開いた。
見える四つの影。
「魔王! この勇者様が倒しに来たぜ!」
どうやら噂の勇者一行らしい。
夢では顔が見えなかったが、その装備は夢と同じだった。
ヤツが夢で苦しめてきた勇者か……。
「よく来たな、勇者」
俺様がベッドから降り立つと、
「キャーッ!」
勇者一行にいた女が声を上げ、手で顔を覆った。
そう。
俺様は今、全裸だ。
だがあの女、顔を覆う手の指は開いてる。
見ないフリして、見ていやがる。
したたかな。
「魔王、全裸で戦う気か? 立派な武器は持っているようだが」
「まさか」
指をパチンと鳴らし、魔王の正装とも言える衣装をまとう。
「丁重におもてなしをする」
「全裸魔王討伐じゃあ、伝説が残しにくいからな」
「魔王に敗れた愚か者の伝説か?」
「逆だ、逆。今からテメェを倒すんだよ」
「やってみろ!」
「行くぜぇ!」
襲いかかってきた勇者一行は、威勢の割に弱かった。
「ふん。勇者とはこんなものか」
「魔王様ぁ!!」
飛びついてきたエンプーサに押し倒され、頭打った俺様は意識が遠のく。
「――はっ!」
目覚めると、そこはいつもの魔王の広間、魔王のベッド。
横でエンプーサも寝ていて、二人とも裸。
「なんだ。夢から覚めた夢か……」
そしてこの魔王、今度は勇者を倒す夢を9回見ることになる。
エンプーサの見せる、いい夢を。
【KAC20254】魔王の悪夢とエンプーサのいい夢 龍軒治政墫 @kbtmrkk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます