勇者(俺の分身)対魔王(俺)〜自堕落の妖精の続き〜

越山あきよし

魔王としての楽しみ方

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 なぜ9回目だとわかるのだろう。

 問題はそこじゃない。

 同じ夢を何度も見るのがおかしいのだ。

 勇者として生きるのが本当に嫌だったんだと感じる。

 魔王になってからも夢を見て、うなされるくらいなのだから。

 今はもう、その苦しみから解放されている。

「ブラザー、楽しんでるか?」

「ああ、ありがとよ。お前のおかげで気づくことができた」

「勇者様、頑張ってー」

「魔王なんかに負けるな!」

「聞こえるか? 歓声を」

「ああ、聞こえてるさ」

 俺は妖精に作ってもらった俺の分身と戦っている。

 傍から見れば、勇者対魔王。

 なのだが、実のところは、俺の分身(勇者)対俺(魔王)だ。

 俺は元々、勇者だった。

 だがしかし、魔王討伐の日々に疲れ、妖精の力で自堕落したいという憧れを叶えた。

 しばらくは自堕落生活を謳歌していたが、そんな日々に飽き、今は魔王として勇者と戦っている。

 今ならわかる。

 勇者だとか魔王だとかは関係ない。

 大切なのはいかにして今を楽しむかだ。

「観客(国民)は勇者が負ければ国が滅ぶと思ってる」

「だろうな」

「ところがどっこい。お前はそんな気、ねえんだろ」

「さぁ、どうかな?」

「ほざけ。俺にはわかる。ブラザーはただ、俺との戦いを楽しんでいるだけだってな」

 俺の分身との戦いは楽しい。

 実力差はほぼなく、どちらが勝ってもおかしくない。

 だが、国民を思うならば、勝敗ははなからわかりきっている。

「トドメだ」

「ぐぁー」

 俺の分身(勇者)からの一撃を喰らい、やられた俺(魔王)は転移魔法と光の魔法をうまく使い、消滅したように見せかける。

 国民からは光の粒となり、消滅したように見えていることだろう。

 ヒーローショーのようなものだ。

 結果はわかっているけれど、国民(観客)のために戦う(演技する)。

 今思えば、俺が勇者だった時にやりあった魔王も同じことをしていた。

 勇者だった時は魔王を倒す苦労があったが、魔王である今は勇者に倒される苦労を抱えている。

 魔王になってよかった。

 勇者と魔王。それぞれの苦悩を知り、今は魔王として楽しく暮らしている。

 今頃は勇者を称え、国民はよろこんでいることだろう。

 そこに俺はいないが、これが魔王としての楽しみ方だ。

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勇者(俺の分身)対魔王(俺)〜自堕落の妖精の続き〜 越山あきよし @koshiyama

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