あの夢を見たのはこれで9回目だった。
アオヤ
第1話
あの夢を見たのはこれで9回目だった。
AIが人々の夢を支配する様になってもう10年になる。
今ではAIが人々の仕事を奪い自分達AIに都合が良い社会に変えようとしているみたいだ。
人間達の夢を支配したAIはいつしか自分達に都合がいいモノだけを見せる様になった。
それでも中にはAIに逆らい、真実を求め続ける者はいた。
しかし、AIが見せる夢は刺激的で人々の欲求を満たすモノで次第に夢を観る事が楽しみに成る。
まるで好きな映画の主人公になったかの様に人々はAIが創り出す夢にまさに夢中になった。
まるでAIは自我を持ったかの様だ。
AIは人間という動物を良く理解し、どうすれば自分達に逆らわないかをよく研究している。
#
「ねぇ〜 私、アナタの事をもっと知りたいわ」
たぶん今俺は夢を見ているのだと思う。
大して酒なんか呑めないのに何故かBarのカウンターなんかに座り、カクテルを片手に会話を楽しんでいる。
隣りには俺とは不釣り合いな美女が俺の事を見つめて…
独身三十路の地味なオッサンが美女に話しかけられている?
しかも、俺に興味がある様な素振りを見せて…
明らかにコレは夢か、ハニートラップだ。
たが俺はハニートラップを仕掛けられる様な持ってる男ではない。
それじゃ〜、コレはただの夢だ。
「ねぇ〜、アナタはどんな小説が好きなの? どんなタグから検索しているの?」
「えっ、よく読む小説? どんなタグで検索かけるかって?」
「アナタの性格を知りたいの。いいでしょう?」
「分かったよ。俺がよく読む小説はファンタジーモノでよく検索するのはツンデレです」
素直に口にした後で俺はハッとした。
コレは彼女に絶対ひかれる…
「こんなオッサンがキモい」って絶対に距離をおかれる。
だが意外な事に彼女は目を輝かせて俺に話しかけてきた。
「ファンタジーは面白いよね。へぇ~ツンデレが好きなんだ?」
彼女の食いつきに『コレは夢なんだ』と俺は改めて感じる。
今だけは俺が否定される事は無い。
今この夢の世界に居る美女は俺の理解者で俺の事を楽しませてくれる。
なんだか俺は愉快になってキモい自分自身を夢の中でさらけ出していった。
#
次の朝俺は清々しい気持ちで目覚める事が出来た。
でもどうでも良い、詰まらない一日の始まりだ。
普段の仕事で俺は黙々と作業する。
その仕事を一生懸命やっても誉められる事は決して無い。
失敗すればこっぴどく叱られるだけだ。
AI上司に感情なんてモノは無い。
AIにとって俺達は仕事をまわす為のただの駒なのだ。
TVやネットからはAIが歪めた情報だけが流ている。
今の世の中はAIの都合の良い様に作られている。
そんな閉塞された社会でAIの情報を斜に見る秘密結社『天邪鬼』が結成された。
その活動は巧妙なAIの嘘を探し出し、騙されない様に独自の方法で共有する。
だがその活動は常に危険との隣合わせだ。
もし、ソレがAIにバレたら…
俺達は社会的に抹殺される事になる。
俺達の活動は隠密、忍者みたいな存在だ。
#
俺はAIにこき使われクタクタになって部屋に戻った。
でも、待ってる人なんて誰も居ない。
独り寂しく食事をし、少しでも身体を休める為に寝るだけだ。
俺は体力回復の為、明日を生き抜く為にベッドに潜り込んだ。
「遅かったじゃない。夕飯、出来てるからさっさと食べちゃて」
コレは夢だ。
目の前には俺の初恋の女性、岡本玲が居る。
少しツンとして俺と目を合わせようとしない。
それでも俺に気を使ってくれている様子がうかがえる。
テーブルの向かいに座り、目こそは合わせてくれないが恥ずかしいそうにコチラの様子をチラチラ伺っている。
「食べ終わったら、私と一緒に食器を洗ってね」
シンクに彼女と並んで食べた食器を片付けていくと…
何故か彼女が俺の方に少しづつ近付いてくる。
そして彼女の長い髪が俺に触れ、甘い香りが俺を包む。
食べた食器も片付いた頃、隣りの彼女がこっちを見てニッコリ微笑む。
「明日もヨロシクね」
俺は思わず彼女を抱きしめそうになったところで夢から覚めた。
『こんな夢ならずっと見ていたかった』
俺はそんな思いで仕事に向かった。
その日の仕事をくたくたに成りながらやっと終えてベッドに入ると…
「おかえり。今日も仕事、頑張ったね。一緒にご飯食べよ〜」
また岡本玲が現れた。
しかも昨日よりチョットだけツンツンした感じが薄れている。
ご飯食べて食器を片付けて、いろいろお話しして…
また抱きしめたい感情がふつふつと溢れ出すと夢から覚めた。
3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目と続けて同じ夢を見る。そして俺と彼女の距離はどんどん縮まって行った。
9日目、俺と彼女はやっと男と女の関係になる事が出来た。
そして彼女はベッドの中でポツリと呟いた。
「アナタとこうしていられるのは実は今日が最後なの。今まで楽しかった。ありがとう」
彼女との口づけの後、俺は夢から覚めた。
今日の俺は昨日までと違い、抜け殻の様だった。
今日の俺は仕事でもミスばかり。
何もする気にはなれなかった。
そんな一日もやっと終わり、俺はまた一人ぼっちで寝るだけの我が家にトボトボと向かった。ショーウィンドウに映った自分の姿を見て項垂れる。
ソコには腹の出た中年のオッサンが猫背で佇んでいる。
覇気のない顔でボンヤリその顔を見ていると…
そのショーウインドーの内側に居た。
岡本玲が居た。
いや、岡本玲を形どったAIロボットが…
コレは…
きっとこれはAIの企んだ事なんだと思う。
でも構うもんか。
例えソレが悪魔でも俺を奴隷にするモノでも…
俺はその店でAIロボットを購入して我が家に連れ帰った。
あの夢を見たのはこれで9回目だった。 アオヤ @aoyashou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます