繰り返し見る夢

遠山ゆりえ

第1話

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

なぜ9回目なんて半端な数を覚えているかというと、今年になってから夢日記をつけているからだ。1月からつけ始め、今は9月。月に1度のペースであの夢を見る。

2度あることは3度ある。9度あることは10度あるのか?このまま数を更新し続け、一体何度あの夢を見るのだろう。


だいたい夢はぼんやりしていて、起きたら忘れている場合が多い。生まれてからこのかた色んな夢を見てきた。1度限りの記憶に残るものもあれば、似たようなパターンの夢を見る時もある。


夢日記でも書かない限り同じような夢の回数なんて覚えていない。


若いころよく見たのは空を飛ぶ夢だった。鳥のように自由に飛び回るというのではなく、なにかに追いかけられ、それから逃れるために仕方がなく飛ぶような状況の夢だった。


また試験の夢もよく見た。とにかく時間が足りず、間違いを見つけて消しゴムで必死に消している途中で試験終了になってしまう。試験とは縁がなくなった今でも時々見てしまう。


最近はそれほどでもないがエレベーターの夢もよく見た。某テーマパークのエレベーターのように急降下したかと思えば、F1レースの車のように走りだす。目覚めるとなんだかぐったり疲れている夢だった。


繰り返し見る夢は悪夢のパターンが多い。楽しくて綺麗で素敵な夢なんてそうそう見られない。ストレスが溜まっているのだろうか。夢占いとか心理学的観点から読み解いてもらうと、あまり幸せではないのだろうな……。


あの夢を初めて見たのは今年の1月だった。珍しい夢だったのでノートに書きとめ、それから夢日記を朝つける習慣ができた。


それはこんな夢だった。


私にとって懐かしいような家の扉が少し開いている。しばらくするとそこから誰かの左手がのぞいた。赤ん坊の手だった。その手と握手すると柔らかくリアルな感じだった。


2回目も扉から左手だけ伸びていた。小学生ぐらいの手だった。やはり握手した。体温も感じられた。


3回目の手は若い女性の手でピンクのマニキュアをしていた。


4回目の手は結婚指輪をしていた。


5回目の手は少し荒れていた。


6回目の手を見てこれは私の手ではないかと思い始めた。


7回目の手は60代の今の私の手そのものだった。


8回目の手には老いが見えた。


今月見た9回目の手には点滴のあとがあった。


どうしよう、来月の10回目の夢にでてくる手が白骨だったりしたら……。









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繰り返し見る夢 遠山ゆりえ @liliana401

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