それでも独楽は回り続ける

笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ

These Men

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「出てくる男はいつも同じ人物だと思います」


 都市伝説の蒐集家を名乗る木兎みみずく氏から接触があったのは一週間前のことであった。


 私がSNSへ投稿した「同じ夢、9回目。向かいに座った男から紙を見せられる直前で目が覚める。男はいつも同じ。あの紙には何が書いてあるんだろう」を見て、彼はDMをくれた。


 普段ならば、このようなDMに返事、ましてや会ったりなんてしないのだが、なぜか私は彼との面会を承諾してしまった。


 喫茶店で向き合って座る。良い薫りを立てるコーヒーを前に改めて自己紹介をし合った。


 彼は「いつも同じ男」が出てくる点に一番興味を持っているらしい。


「This Manという都市伝説をご存知ですか?」


 私が首を横に振ると、木兎氏は簡単にその都市伝説について教えてくれた。


 アメリカの精神科医が患者の夢にいつも出てくるという男性の人相書きを行い、それを別の患者に見せるとその患者も「この男が夢に出てくる」と言い始めたのだという。この奇妙な偶然を検証すべく、精神科医は同業者へもこの男の人相書きを送ってみた。すると、同業者の患者たちも「この男を夢で見たことがある」と証言し始めた。


「まぁ結局この話はゲリラマーケティング……つまりは話題作りの嘘だったんですけど」


 彼は話を区切るように、コーヒーを飲んだ。


「ただ僕は真っ赤な嘘とも言い切れないと思っていて、嘘だと仕掛け人が公表した後もこうやって都市伝説として根強く『This Man』は人気なんですよ」


 彼は鞄からクリアファイルを取り出す。そして、一枚のコピー用紙を引き抜いた。


「だから僕は何度も同じ夢を見る人たちに聞いて回ってるんです。もしかして、この男だったりしませんか? 夢の男は」


 私はコピー用紙を受け取り、その人相書きを見ようと……



「なるほど。いつもそこで目が覚めるのですね」


 木兎医師は電子カルテから私の方へ向き直った。私の前のテーブルには紙が置いてある。


「その男性はこんな顔をしていませんか?」


 木兎医師は、ゆっくりとその紙をめくった。



 私は目覚ましを止めた。


 あの夢を見たのは、これで9回目だった。ベッドサイドの独楽こまはまだ回り続けている。



 了

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それでも独楽は回り続ける 笹 慎 / 唐茄子かぼちゃ @sasa_makoto_2022

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