夢で良かった【KAC2025】

空草 うつを

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 大地は草木もなく赤く爛れ、人々が住んでいたであろう町は瓦礫の山と化していた。かろうじて原型をとどめている建物は火を吹き、ごうごうという音だけがあたりに響いている。

 私はその場所から動くことができず、見ていることしかできない。私以外に生き物はいない。ぽつんとひとり、滅びゆく町に取り残されたようだ。


「火を、止めないと」


 そう呟いた時、背後から金属が擦れる音がした。


「誰っ……!?」


 振り向いた先にいたのは、人形のロボットだった。全体は、名前も知らない銀色の金属でできているようだ。頭部は筒状となっていて、その中心にはガラスがはめ込まれている。おそらくカメラなのだろう、無機質なガラス越しに私を見つめている。

 四つ足で歩行してきたそれは、急に立ち上がると耳をつんざくようなけたたましい警報音を発した。

 思わず耳を両手で塞ぐ。すると、その音に反応したのか、崩壊した町の至る所から同じ型のロボット達が大勢集まってきた。逃げるまもなく取り囲まれ、手足を掴まれた。


「離して、やめてっ! 誰か助けてっ!!」


 ――ミイナ……ミイナ。


 無我夢中で叫ぶと、私の名前を呼ぶ声がした。ロボット達の拘束を解こうともがきながら、その声に向かって必死に助けを求めた。

 やがて視界は白み始め、私は意識を取り戻した。


「ミイナ、大丈夫? ひどい汗よ」


 寝ている私の傍らにいたのは、母だった。私の額に浮かんだ汗を拭って、心配そうに覗き込んでいる。


「お母さんっ」


 思わず抱きつくと、母は優しく私の頭を撫でてくれた。


「怖い夢でも見たのね。大丈夫よ。お母さんがここにいるわ」

「ありがとう、お母さん。もう少しこうしていて良い?」

「もちろんよ。ミイナ、あなたを愛しているわ」


 ああ、あれが夢で良かった。だが、9回も同じ夢を見ることがあるのだろうか。怖くて脳にこびりついてしまったのだろうか。

 でも今は、母に甘えていよう。母の温もりを感じながら、先程の悪夢を忘れようとした。

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