トリの妖精に隠される話

橘スミレ

第1話

 デートにどの服を着ていこうか、迷っていた。迷い続けて一時間くらい経ったときに、妖精が降ってきた。

 白くて丸っこいシマエナガみたいなトリの妖精が降ってきた。トリの降臨、といった感じでやってきた。

 最初はただのトリだと思った。けれど喋った。びっくりして、はたき落とそうとしたけど触れられなかった。

 トリは自らを「恋の妖精」と名乗った。キューピットかと問うたが違うらしい。ただのか弱き妖精らしい。

 トリは部屋中に散らかされた服をみて、ある一着の上に降り立った。白のワンピースだ。普段着る服は黒ばかり、それにスカートなんて制服以外で殆ど履かない私はびっくりした。

 トリは服をつついてもう一度主張する。

「この服が一番いい。この服を着れば明日のデートは上手くいく。この服でなければ駄目だ」

 選ぶのに疲れていたからだろうか。この非現実的な奇妙な存在の言うことでも聞いてみようと思ってしまった。他の服をしまい、久々に出してきたワンピースにアイロンをあて、ハンガーにかけた。

 トリはそれを満足げに見守ると消えていった。


 次の日のデートは本当に上手くいった。恋人の前で情けない姿を見せずに済んだ。私はこれをトリのおかげと思うことにした。もしかしたら他の要因があるのかもしれない。けれどなんとなくあのトリのおかげにしたかったのだ。


 家に帰るとまたあのトリがいた。

 机の上でどことなく楽しそうなトリがいた。トリなので表情はわからないが纏っている雰囲気が楽しそうであった。

「デート、上手くいったよ」

 トリを撫でると手のひらに擦り寄ってきた。少し大きくふんわりしたような気がした。トリに心当たりはないか聞いたが、気のせいではないかと言われてしまった。


 私はあれから何を決めるにもトリに頼るようになった。その日の昼食から何を話すかまで何もかもトリに聞くようになった。

 最初のころはそれで何もかも上手くいってきた。恋愛も学業も何もかも上手くいった。だが、それもすぐに崩れた。段々と自分で判断することができなくなった。今までどうやってものを考えていたかわからなくなった。自分の中が空っぽになっていた。

 それは彼女にも見抜かれていた。「私が好きだった君とは、もう変わっちゃったね」と言われてフラれた。友人もいなくなった。私は一人になった。

 もふもふのトリに助けを乞うた。一体私はどうしたら良いかと聞いた。

 大きく大きく、私と同じくらいの大きさまで大きくなったトリは私を包み込んだ。視界が真っ暗になった。脳内に声が響いた。

「何も気にならない世界に連れて行ってあげる」

 視界が開けたとき、目の前には白髪の少女がいた。白い服に白い肌。目と膝まである手袋だけが黒いので、あのトリが人の姿をとっているとわかった。

「お手をどうぞ?」

 この手をとればもう戻れないとなんとなくわかっていた。けれど私に選択肢はなかった。

 もう私にはトリさんしかいないのだ。


 私は彼女の手を取った。

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トリの妖精に隠される話 橘スミレ @tatibanasumile

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