投資で爆益したら、幼なじみVTuberの態度が変わったんだが?

キダ・マコト

1話:幼なじみ、表と裏でキャラが違いすぎるんだが

「ギャラがたったの5万とか、論外にもほどがあるんだけど」


 あざ笑うように神崎かんざき美玲みれいが、手元の資料をフローリングの床へバサッと投げ捨てた。


「そんなはした金で、あたしが動くとでも?」


 ふざけた発言してくれるじゃないか。

 一応こっちが頭下げる立場なので、怒鳴りそうになるのを、なんとかこらえた。


「じゃあ、10万なら……どうかな?」


 これが俺の限界。スポットワーカーの身で、これ以上の大金をポンと出せない。


「しょぼい金額だけど、大志くんにはこれが精一杯だよねぇ……」


 わざとらしく考え込む美玲。

 どうせ報酬をつり上げる算段でもしてるんだろ。


「まぁ、大志とは顔なじみだしね。少しくらい温情かけてあげてもいいか」

「やった! じゃあ――」

「早まらないで」


 俺の言葉を遮って、美玲はさらりと告げた。


「成功報酬で、取り分は『5:5』にしてあげる。幼なじみ割引だから、感謝なさい」


 は?


「待て待て、成功報酬って……稼ぎの半分持ってくつもりか?」

「そ。あたしって人気者で忙しいの。貴重な時間を割くなら、それなりの対価が必要でしょ?」


 がめつすぎだろ……金の亡者かよ。

 やっぱ人選ミスった?


 美玲が嗜虐的な笑みを浮かべる。


「ほらほらぁ、西村にしむら大志たいしくん。素早く決断しないと、ビジネスチャンス逃しちゃうんじゃない?」


 くそっ、下手に出たのがまずかったか。

 これだからこいつは――


● ○ ● ○ ● ○


 遡ること、およそ半日……


 スマホ画面には、ピンクのツインテールに猫耳ヘッドセットをつけた美少女――VTuberが映し出されていた。


「やっほー! みんなと夢見る素敵な未来。ユメノ・ミライだよ~♪」


 画面の中で定番のキャッチフレーズを言い終え、犬の尻尾張りに手を激しく振っている。


「今日はね、これ! じゃじゃーん!」


 ミライが手に持っているのは某メーカーのエナジードリンク。


「最近ね~、お仕事いっぱいでおねむなの。だから、これでパワーチャージしちゃうぞっ!」


「カシュッ!」とプルタブを開ける。

 ゴクゴクゴクッ……と、音を立てながら勢いよく飲み干した。


「ぷはぁっ! うん、なんかすごい! なんかすっご~い!! これね、元気がモリモリわいてくる感じ! みんなも飲んでみてっ!」


 ノータイムでファンがツッコみコメントする。


【いやいや、そこまで即効性ないっしょww】

【ミライちゃん、思い込み激しすぎ!】

【この案件、いくらもらってるの?(笑)】


「えー? そんなことないもん!」


 ほっぺを膨らませたミライが、今度は力こぶを作るように腕を曲げた。


「だってほら、ミライ、すっごく元気になってきたよ~? うわぁ、今なら空も飛べるかも~!!」


 ミライがしきりに両手をバタつかせた。鳥の羽ばたきをイメージしたのだろう。

 短絡的だが、キャラ設定に忠実なオーバーリアクションだ。感服せざるを得ない。


 はぁ……


 俺は無表情のまま、スマホ画面を凝視していた。

「面白いか?」を問われれば、即答できる。


「興味なし!」と。


『中の人』を知ってるからこそ、ユメノ・ミライに幻想なんか抱けない。


 視界の端に、配信の視聴者数がとんでもない数値を示しているのが映った。


「本性を知らなきゃ、そりゃあメロメロにもなるか……罪な女だよ、まったく」


 ミライが手のひらを広げて見せる。


「名残惜しいけど、おしまいの時間だぁ。みんな、また遊ぼうね~」


 ファンの何人かは投げ銭で「さよなら」の挨拶をしていた。律儀というか健気というか、ここまでくると一種の宗教に見えてくるから不思議だ。

 信者じゃない俺は、一円たりとも払わないけれど。

 配信が終わるのを待ち、アプリを閉じる。

 ため息をつき、通話の準備。


「よしっ。気合い入れろ、俺!」


 決意を固め、こちらからコンタクトを取った。



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🔗 ヒロインのイラストはこちら ↓

https://kakuyomu.jp/users/kidamakoto/news/16818622171323165191

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