フィーネの白い兎。
Rin_55
第一章 運命の出会い
第一節 彼女は屋上で何を思ったのか?
夕焼けが校舎を赤く染める中、屋上に一人の少女が立っていた。風に揺れる短い金髪が彼女の青い瞳を際立たせ、その瞳には深い孤独と焦燥が宿っていた。
「…お姉ちゃん…」
彼女の呟きは、痛みを伴う記憶の断片だった。八年前、大地震で姉を失ったその日から、ありすはこの場所に通い続けていた。姉との唯一の繋がりがここに残っているように感じていたからだ。
手には姉が最後に残した絵本『フィーネの白い兎』があった。何度も読んできたその本は、彼女にとって姉との絆そのものだった。
「この本がいつか…」ありすは言葉を飲み込み、思いを馳せる。
その時、静寂を破る声が響いた。「お姉さん、何してるの?ここで一人で?」
驚いて振り返ると、見知らぬ少女が座っていた。緑のワンピースに赤いリボン付きの帽子、そして背中には大きなリュック。まるで物語の登場人物のような風貌だ。
「あなたは…誰?」
しばしの沈黙の後、少女はにっこりと微笑んで答えた。「私はフィーネ。そう呼んでくれていいわ。」
その名にありすの心が大きく揺れた。フィーネ――それは彼女が持っている本の主人公の名前だった。
「どうしてフィーネなんて名前を…?」
「あなたが持っている本、その物語に私はいるからよ。」
ありすは信じられない思いでフィーネを見つめたが、次の瞬間、少女はリュックからパンを取り出して差し出した。
「これ、私の故郷で作られたパンなの。食べてみて。」
ありすは戸惑いつつもパンを一口かじった。温かさが広がり、彼女の中で眠っていた記憶が呼び覚まされる。
「…美味しい…」
涙が頬を伝う。震災の日、誰かがくれたパンの温もりが胸に蘇った。
「昔、大きな地震があって、その時…」
ありすの声が震える。フィーネはただ静かに彼女の話に耳を傾けた。
「不思議な世界は本当にあるの。あなたのお姉さんが言っていた通りよ。」
その言葉が、ありすの胸に響いた。
「私の願いは…叶うの?」
フィーネは微笑みながら力強く頷き、杖を空に掲げると、宙を舞い始めた。「一緒に行こう、ありす。あなたが探し求めていた世界へ!」
差し出された手を見つめ、ありすは息を呑んだ。過去の悲しみと希望が交錯する中、彼女は決心した。
「行く…お姉ちゃんに会うために。」
二人は光に包まれ、姿を消した。
第一章 運命の出会い
二節 木漏れ日の中で
眩い光が消えると、ありすは見知らぬ世界に立っていた。虹色に輝く空と色とりどりの花々が咲き乱れ、甘い香りが漂うその場所は、まるで夢の中のようだった。
「フィーネ…?フィーネ、どこにいるの?」
彼女は焦燥感に駆られて辺りを見渡したが、フィーネの姿はどこにもない。胸に押し寄せる孤独感に、姉との別れが脳裏をよぎった。涙が頬を伝い、彼女は膝をついてしまった。
突然、背後から低く重い音が響き渡った。ありすは驚いて振り返ると、そこには巨大なドラゴンが立ちはだかっていた。鋭い爪と燃え盛る鱗、その圧倒的な存在感に、彼女の体は思わず震えた。
「お前は…人間か?この地で何をしている?」
低く響く声が彼女の心を震わせる。ありすは恐る恐る、フィーネの名を出した。
「フィーネ?時渡りのフィーネか…」
ドラゴンの目が光り、彼女はフィーネが特別な存在であることを悟った。
「どうしてフィーネを知っているの?」彼女が尋ねると、ドラゴンは大きく吠え声を上げた。次の瞬間、ありすは風に巻き込まれ、暗闇に落ちていった。
第一章 運命の出会い
第三節 闇の中で
深い暗闇の中、ありすは目を覚ました。無限に広がる漆黒の世界、冷たい風が彼女を包み込む。
「ここは…どこ?」
彼女の声は虚空に吸い込まれ、返答はない。不気味なささやきが闇の中から聞こえてきた。骨が擦れる音に似たその音は、彼女の恐怖を増幅させる。
突然、足音が止み、骸骨のような生き物が目の前に立ちはだかった。「生け贄…生け贄…」
骸骨の手が伸びかけたその時、鋭い声が響いた。「待て!」
赤い瞳を持つ別の骸骨が現れ、低い声で問いかけた。「貴様、フィーネの知り合いか?」
ありすは震えながらも答えた。「そうよ…フィーネに…連れてこられて…」
赤い瞳の骸骨は冷笑しながら言った。「フィーネは我が王の計画を知っていた。貴様は罠にかかったのだ。」
その言葉に続き、骸骨たちは彼女を囲み始めた。彼女は恐怖で体が動かなくなり、ただ絶望に囚われていた。
第一章 運命の出会い
第四節 花火
ありすが複数の骸骨に囲まれた瞬間、突然、爆発音が響き渡った。彼女は反射的に天井を見上げ、目の前で大きな花火が夜空に咲くのを目にした。赤や青の光が広がり、空を染めていく。だが、それは敵の攻撃による爆発ではなく、華やかな花火だった。
「何が…起きているの?」ありすは混乱しながらも、目の前で広がる光景に圧倒されていた。
煙が晴れると、花火を打ち上げていた数人の人影が見えた。一人は巨大な大砲を持ち、次々と花火を発射していた。骸骨たちはその派手な光と音に驚き、混乱していた。もう一人は空を飛ぶ箒に乗った少女で、仲間たちに的確な指示を出している。
「チョコ!早くしなさい!あんたが助けたいって言ったんだから!」箒に乗った少女――タルトの声が響く。
「わかってるよ!」と答えた声が煙の中から聞こえた。
その瞬間、フィーネが空から現れ、ありすの目の前に着地した。彼女は骸骨たちに素早く反撃し、まるで忍者のように杖を振り回して次々と敵を粉砕していった。ありすの心臓は激しく鼓動し、驚きと興奮が入り混じる。
「フィーネ!」ありすは叫んだ。
赤い瞳を持つ骸骨が怒りに震えながら叫んだ。「ものども静まれ!この小娘を殺せ!」そして、大剣を抜き、ありすに向かって切りかかろうとする。
しかしフィーネは、その剣を巧みにかわし、強烈な一撃を放った。「チッ、まだ足りないか…」と彼女は呟く。
その瞬間、大砲を持っていたクルミが赤い瞳の骸骨に狙いを定め、強烈な砲撃を放った。爆発音と共に骸骨は吹き飛ばされ、もがき苦しんだ。クルミは「今日はいい感じに調子が良いみたい」と言ったが、その直後、骸骨に足を掴まれて地面に叩きつけられた。
「きゃっ!」
すかさずタルトが杖を振りかざし、燃え盛る炎で骸骨を一瞬にして焼き尽くした。「クルミ、あなたはいつも油断しすぎ!」とタルトは呆れながら叫んだ。
クルミは顔をしかめながら立ち上がり、「わかってるわよ、タルト!」と決意を込めて再び大砲を構えた。彼女は赤い瞳の骸骨に再度狙いを定め、最後の砲撃を放った。
その瞬間、フィーネも空高く飛び上がり、杖を掲げた。杖は虹色の光に包まれ、その光はまるで彗星のように闇を切り裂いていく。
「これで終わりだよ!」フィーネは力強く叫び、杖を振り下ろした。
巨大なエネルギーの一撃が放たれ、光がドラゴンを包み込んだ。轟音と共に大地が震え、ドラゴンは悲鳴を上げながら朽ち果てていく。その体からは魔力の灰が立ち上がり、鱗がボロボロと崩れ落ちていった。
光が消えた時、ドラゴンの姿はもうそこにはなく、残されたのは静かな夜の空だけだった。仲間たちは互いに顔を見合わせ、勝利の余韻に浸っていた。
ありすはその光景を目の前にしながら、胸の中に広がる安堵感を感じた。壮大な戦いが終わり、彼女の冒険は新たな段階へと進んでいくのだ。
第一章 運命の出会い
五節 「目覚め」
ありすは強い光で目を覚ました。
目の前には木漏れ日が差す森が広がっていた。
ここが異世界に来て最初に辿り着いた場所だった。
周囲には虹色に輝く光の輪が漂い、彼女を包み込んでいた。
柔らかな苔と風に揺れる木々の音が、新しい一日の始まりを知らせた。
ありすの心にはフィーネの言葉がまだ重く響いていた。
彼女は緊張と驚き、そして微かな喜びが交錯する感情に戸惑っていた。
「お姉さんになってくれないかな?」というフィーネの提案に、ありすは一瞬目を見開いた。
しかし、その瞳の奥には内心の喜びと不安が揺れていた。
「フィーネ…」
ありすが小さな声で呟くと、フィーネは一瞬躊躇した後、優しく微笑んで近づいてきた。
彼女の瞳には深い謝罪の意が込められていた。
「これは、ありすがこの異世界で宿す強大な魔力だよ。
ドラゴンはその力を利用しようと狙って、君を幻の中に閉じ込めたんだ。
本当にごめんね。君を危険な目に遭わせてしまって。」
ありすは軽く頷いて、感謝の意を示した。
しかし、フィーネの言葉に対する彼女の複雑な感情はまだ晴れないままだった。
「お姉さんになってくれないかな?」とフィーネが提案した瞬間、ありすは驚きで目を見開いた。
その瞳には戸惑いとともに、心のどこかで温かい感情が芽生えているのが見て取れた。
「ごめん、フィーネ。私、ちょっと…」
ありすがそう呟くと、視界が急にぼやけ始めた。
周囲の音が遠のき、足元の地面がわずかに揺れた。
次の瞬間、彼女は完全に意識を失い、闇の中へと引き込まれていった。
第一章 運命の出会い
第六節 「夢の世界の主人」
意識を取り戻したありすは、自分が神秘的な空間にいることに気づいた。
目を開けると、彼女の前には幻想的な景色が広がっており、その中心には一人の少女が立っていた。
少女は普通の少女のように見えたが、その瞳には深い悲しみと古い知恵が宿っているようだった。
「ここはどこ…?」とありすが尋ねると、少女は優しく微笑んで答えた。
「ここは私の夢の世界。外の世界から逃れてきたの。」
少女は自分の名前を明かさず、ありすに対して、彼女自身が特別な存在であることをほのめかした。
「あなたは、この世界にとってとても大切な人。あなたの心と魂には、大きな力が宿っているのよ。」
少女の言葉に、ありすは自分の内に秘められた可能性を感じ始めた。
彼女は、自分がただの少女ではなく、何か特別な使命を持っていることを感じ取った。
「私は、あなたがその力を見つけ出し、自分自身の道を見つけることを願っています。」
少女の言葉に心を打たれたありすは、自分の運命を探求する決意を固めた。
彼女は立ち上がり、新たな使命を胸に、光溢れる世界へと歩み始めた。
その瞬間、夢の世界は静かにその扉を開き、ありすの新たな物語が始まったのだった。
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