第35話 最後は側に

 バニラテとシュロノワールが。ドラゴンになったリュウの場所に向かった。

村は束の間の平和が訪れ、家に隠れていた村人達がぞろぞろと出てきた。その中にマキの姿もあった。俺はマキに事情を聞く事にした。


「マキ、リュウと一緒に逃げたんじゃ?」

「私も一緒に逃げようって言ったんです。けど、あの人は優しいから」


リュウはバカだった。

いい奴過ぎるほど馬鹿だった。

村を救うためにバニラテと戦う事を選択したらしい


「いいタイミングでドラゴンが来たな」

「ああ、それよりリュウの奴は何処に行ったんだ?」

「こんな時のあいつだろ?」


心のない言葉が飛び交う

その言葉を聞いたマキが鬼の形相で村人たちに歯向かう。


「あんたら、よくそんなこと言えるわね! あの人が、あの人はずっとこの村の事を思って助けて来たのに! 何も知らないくせに、私この村なんか大っ嫌い!」

「マキ!」


マキの母親が暴走する彼女を止めた。

暫くすると落ち着きを取り戻したが、マキの村人たちに向ける怒りが収まることは無かった。マキがある程度落ち着いた事が分ると母は優しくマキに声をかける。


「マキ、母親になるあなたにとって一番守るべきものはなに?」

「……お腹にいる赤ちゃん」

マキは小さな声で答えた。

「そう、それはリュウさんにとってもそうなの」

「……」

「だから約束して、絶対に無事に帰ってくると」

「お母さん?」

「リュウさんの所に行くのでしょ? 止めたって聞く耳持たないでしょうから、だから約束して、帰ってくると」


 マキの母はリュウの正体があのドラゴンだと知っていた。

愛する夫の所にマキが行くと分っていた母は、マキと約束することで自分の娘が死なないようにしたのだ。このままだと一緒に死んでしまうのではないかと嫌な感が働いたのだろう。


「わかった。絶対戻ってくるから」

「ええ、約束ね」

母親は俺の方を見て深く頭を下げた。

「どうか、この子を無事にリュウさんの元へ、そして私たちの元へ案内してくれないでしょうか。お礼は必ずします。」

「ああ、いいぜ」




 昼はとうに過ぎ、夕日がもうじき見える時間帯。

この辺りの山は普段は静かで平和な山のハズなのに、今日はやけに騒がしい、ドラゴンがいるからではない、荒々しい魔物が木々をなぎ倒しながら平和を愛するドラゴンの元へ向かっているからだ。


「しかしオマケで貰った称号、【露出狂】がここで役に立つとは」

称号【露出狂】によりバニラテだけでなく、シュロノワールも強制的にこの場に引っ張って来ることが出来たのだ。

「称号? ああ、転生者達は自分の力見る事が出来るんだっけ?」

「ああ、で、幽霊のアンタがバニラテだな!」

「そう、あんたと殺し合いをしに来たの!」

「なら約束して欲しい、村の人達には手を出さないと……」

バニラテは不服な顔を作ったが、リュウの願いを受け入れた。

「いいわ、あんたが本気で戦ってくれるのなら!」

「感謝するよ」





 俺とマキは山の中を大急ぎで走っていた。しかし、マキはただの人間で身重だ、どうしても遅くなってしまう。それでも、ハアハアと息を切らしながらマキは必死にリュウの元へ向かう。


 遠くでドゴンッという爆発音が鳴り響く、どうやらリュウとバニラテが戦い始めたようだ。まだリュウの姿が見えない距離なのに、吹き飛ばされた木がここまで跳んできた。一体どんな戦いをしてんだよ

俺は戦闘能力は無い、だが無力な人間1人くらい瓦礫から守ることは出来る。だから何かあってもマキを無事にリュウの元へ行かせることが出来ると思ったのだが

「マキ、上からの落下物に気を付けて行け!」

「は、はい」

俺の予想以上に激しい戦いになっているようだ。

リュウが吐いたブレスの熱が近づくにつれどんどん熱くなる。



 着いた頃には戦いは終わっていた。

立っていたのはバニラテだった。

対するリュウは羽は毟り取られ、角は折れ、左肩から腕が切り落とされていた。

2人を見るに勝負はバニラテの圧勝だったようだ。

そんなリュウを見たマキは彼の側に行こうとするが、俺はマキを止めに入る。


「な、なにするんですか邪魔しないで下さい」

「お前が行ったら殺されるぞ!」


俺の必死の行動は空しく、彼女は俺の羽を振りほどきリュウの側に行った。


「マキ?! 何で来たんだよ!」

リュウが驚きながらマキに対して怒った。

「いやよ、あなたともっと一緒に居たいもの!」


それでもマキはリュウの側を離れなかった。

そんな彼らの光景を目の当たりにして、バニラテは「まあ愛ね」と2人の事をからかい始める。マキも口をガタガタと震わせながら魔王幹部に物申した。「もう、決着はついたでしょ? 出てってください」と、

マキは死ぬ気は無かった、リュウを見捨てる気も無かった。

彼女の目は戦士のような覚悟の決まった者の目だった。


 彼女の勇士に負けたのか、バニラテは後ろを向いた。

意外な行動だったのか、シュロノワールがバニラテに「よろしいので?」と聞いたが、彼女は「まあ、勝ったからいいか」と言って帰ろうとする。


「あ、ありがとうございます」

夫がボロボロにされたのに、マキは土下座してバニラテにお礼を言う。

「よ、良かった……よかったよー」

マキはボロボロと涙を流しながらドラゴンのリュウの顔に抱き着いた。

リュウも緊張の糸がほぐれて涙を流している。




「あれ?」


マキが抱き着いていた、リュウの大きな顔が急にドシンと大きな音を出して、地に落ちたのだ。首から大量の血が噴き出し、一瞬でマキの全身を真っ赤に染めた。

マキは一体何が起こったのか理解するのに時間が掛かった。

何故リュウは動かなくなったのか、何故自分が真っ赤に染まっているのか、足元にできた真っ赤な水溜まりの正体、バニラテ達は何で笑っているのか。


「アハハハ、見てあの顔!」

「クククッ、芸術ですね! 流石バニラテ様」

バニラテ達はゲラゲラと大笑いしていた。

「そうでしょ、でも優しくない? あのドラゴンの約束守ったのよ。ホントはあの生意気な女の方を殺そうと思ったんだけどね。まあ、未来の楽しみが増える方がいいと思ってアッチにしたの」

「未来の楽しみ?」

シュロノワールはバニラテに聞いた。

「そうそう、あの女ドラゴンとの子を孕んでいるわ! 聞いたことがない、ドラゴンと人間とのハーフなんて! きっと強い子になるわ、だから、おい!」

バニラテはマキの顔を掴んで言い放つ。

「元気な赤ちゃん産めよ!」



 こんなに夕日は綺麗なのに、マキの目の前に広がっている光景は地獄だった。

「マキ……立てるか?」

「……」

マキは魂が抜けたように動く気配がなかった。


 すっかり日は暮れて夜になってしまった。

マキもようやく動けるようになって、村に戻るため歩き出した。

「ねえ、ロードさん」

マキが力を振り絞り俺の名を呼んだ。

「なんだ?」

「この子を、お腹の子を強く育てたいの……」

マキの顔は憎しみと怒りに満ちていた。

それ以外の事は何もない、子に対する愛も無くなっていた。

「自分の子を復讐の道具にするのか?」

マキは俺を無表情で目で伝えてきた。

本気なのだ、もうこの女は止まらない、リュウの仇を討つために、

自分の子をバニラテ達を殺すための存在と思っている。


「わかった、まずは一度村に戻ろう……。母親も心配している」

俺はマキを村へと案内した。

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