第33話 行かないで
川の水が冷たい、このまま流されていくのもいいのかもしれない、人生長いのだ、死ぬ恐れも無い俺にとって海に出ようが、魔物に食われようが復活する。あれ、人生って言ったが、俺は鳥じゃなかったか? 俺は何で川に流されているんだ?
たしか……
少しづつ記憶が、体が、意識が戻って行く。
「そうだ、リュウが危ないんだった!」
バニラテに殺された俺は、蘇生が始まって川に流されていたのだ。
その間にもバニラテ一行は村に向かっている。一体どこまで進んだのだろうか、もしかしたらもう村を襲っているのかもしれない。リュウは殺されているのかもしれない。それなら、だとしたら、俺はあいつの最後を見届けなければいけない。
俺は全速力でリュウのいる村へ向かった。
村は半年経っても何も変わっていなかった。
平和そのものだった、もうすぐ魔王軍幹部の化け物がやってくるというのに
「あ、マキちゃんとこに居た三つ足の鳥だ」
村の入り口に見知った村の若者がいた。
「おお、若い兄ちゃん久々だな! リュウは何処にいる?」
「リュウなら家にいるぜ、そんなに慌ててどうしたんだ?」
「そうか、ありがとな! 親切に言うが今すぐ逃げた方がいい、もうじき魔王の幹部がここに来る。どう転んでも勝てっこないやつだ。」
若者はキョトンとした顔でもう一度聞き返して来た。俺は「いいからさっさと逃げろ」と言う。だが無理もない、こんな田舎に魔王の幹部が来るなんて、夢にも思わなかったのだろうから。
リュウの家も何も変わっていなかった。
俺はその家に向かってバードストライクした。
「おい、リュウ大変だ。速く逃げた方がいい!」
「おい、誰だ窓をぶっ壊した奴って、ロード!? ロードじゃないか! お前どこ行ってたんだよ! 急にいなくなったから心配してたんだぞ!」
リュウは久しぶりに会えた俺に喜んだ。
「ああ、悪い、空気の読める俺はクールに去ろうと思ってな。て、違う」
俺は本題に戻ろうとした。
「リュウお前がいない間にもう結婚式しちゃったよ」
「そうか、おめでとう。ってそうじゃない」
「なんだよ、意外と反応薄いな」
「そんなことよりヤバいんだって!」
「そんなことってなんだよ、おれの人生において一大イベントだぞ!」
「だーからー」
俺とリュウは軽く言い争いになってしまった。
こんなことしている場合じゃないのに
「まあまあ、久しぶりに会ってどうしたの? もっと仲良くしないと」
そう言ってマキが奥からやってきた。彼女は少しポッコリとしたお腹を大事そうに撫でていた。
「あ、新しい家族におめでとう」
「フフフ、ありがとうございますロードさん! 今日はどうしたんですか?」
「ああ実は……」
俺がリュウたちに、バニラテ達が向かってきていることを伝えた。
「そ、そんな、魔王軍幹部が……」
マキはさっきまでの幸せそうな顔が一瞬で絶望の顔に変わってしまった。
いくら閉鎖的な村でも魔王軍の恐ろしさぐらいは知っている。
マキ震える身体をリュウは優しく抱きしめる。
「なあ、そのバニラテ・スターバックスって奴は強いのか?」
リュウの目は死んでいない、だがこの時は死んでいて欲しかった。
「おい、戦う気じゃないだろうな……」
俺は一応聞いてみることにした。だが予想通りの答えが来てしまった。
「戦うさ」
その言葉を聞いた瞬間、妻のマキがリュウの服をガシッと鷲掴みして、絶対に行かせないと行動で伝えた。恐怖と絶望で包まれた顔がリュウの心を揺らげる。それほどの相手で、たぶん戦ったら死んでしまうと
「お願いします。私を1人にしないで下さい、この子が産まれるまで私たちを守ってください。村が滅んでしまっても、あなたがいてくれたら私は立ち直れる。お願い行かないで……」
マキは必死にリュウを止めていると
村の入り口付近が騒がしくなってきた。
「魔王軍だー」
「魔王軍が攻めてきたー」
村の連中が大声で叫ぶ、
とうとう来てしまった、あの化け物が……
「私の名はバニラテ・スターバックス。元コーヒル王国騎士団長にして、前魔王討伐した勇者、バニラテ・スターバックスが魔素により魔物化した霊だ。今は現魔王、
村連中はその言葉を聞いた瞬間、誰もがリュウの事だと思った。
「は、はやく、リュウを連れてこないと……」
「で、でもリュウが可哀そうじゃ」
「一人だけで済むなら安いもんだ、それにこの時のための用心棒だろ」
村人たちのコソコソ話にイライラしたのか、
ゴラス・マゴットが声を荒げて喋る
「おいおい、聞いてなかったのか? さっさと、あのバカみたいに強い奴を連れて来いって言ってんだよ! てめえらはその後殺してやるから……」
ゴラスの台詞が急に消えた、と思ったら木がドゴンッと大きな音を出して倒れてしまった。まるで砲弾でも食らったような破壊音が響いたのだ。
「きゃああああ」
女の悲鳴が村中に響き渡った。
ゴラスの首から上が消えていたのだ、そして先程の砲撃音は玉となったゴラスの頭が木にぶつかった音だったのだ。ブタ顔のゴラスの顔は原型がわからなくなるほどにグチャグチャになっていた。
「弱いくせに、強がる奴は嫌い、長いモノに巻かれる奴も、コバンザメみたいな奴も嫌い、雑魚は雑魚らしく生きるか強くなってくれないかしら?」
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