第32話 バニラテ・スターバックス

 俺がリュウの側から離れて半年ほど経っただろうか、その間俺は別の転移者達のサポートをしていた。生物が欲する欲がない俺にとって、別世界から来た転移者と転生者達のチュートリアルの手助けをするのが生きがいだ。

前の世界と違い、この世界は恐怖と魔法と暴力で作られている。前の平和な世界で暮らしていた奴がどうなるのか、前の暗く希望のない世界で暮らしていた奴がどうなっていくのか見るのが俺の唯一の楽しみなのだ。


 

 俺は久々にリュウの様子を見に戻っている所だ。

大きな山に隠れた閉鎖的な村だ、魔物の数も少なく比較的平和な村なのだ。

今思えば、ドラゴンである大山リュウがいたからあの山は魔物の数が少なかったのかも知れない、なんにせよあの時みたいな族が来なければ平和な村なのだ。


 村に続く川を見ながら俺は向かっていた。

しかし、その道中に不審な一団を発見した。20人ぐらいの武器を持った男どもがぞろぞろと山を登っているではないか! しかもこの族共見覚えがある、前に村を襲おうとした、ゴラス・マゴット達じゃないか!


「こいつもしつこい奴だ、まさかまたリベンジしに来たのか? だが、あの山にはリュウがいる。たかが数人増やした所で……」


俺は最初、ゴラス達が何故リベンジしに行っているのか分からなかったが、すぐにその理由がわかった。先頭の馬は、妖怪の馬骨のような肉のない馬だった。そいつに驚いたのではない、その馬に乗っている人物に驚いたのだ。


「山の村に強い奴がいるのだな!」


強い言葉を出すのに生気のない青白い身体、生前に身に着けていた鎧も身体と同じく青白いカラーになっている。ただ黒目が血の様に真っ赤に染まっている。

何十年も経って魂だけの存在となり、この世に蘇った魔物、着ていたモノは当時身につけたモノを霊気で作り出したに過ぎない。この魔物はゴースト、夜に現れるそこらのゴーストと訳が違う。


「はい、このゴラス・マゴットによれば、あの災華さいかのドラクエルに匹敵しうる男がいたとの事です。私はその男の正体がドラクエルかと……」

執事みたいな格好をしている悪魔が先頭のゴーストに説明した。

「何でもいいわ、私の事を楽しませてくれるのなら」

ゴーストはそのことを聞いて更にワクワクし出した。

このゴーストは昔、魔王を打倒し、世界を救った英雄と称えられた女騎士、しかし今は歴史から名を消され、彼女を称えた銅像はあった事実さえ消された。それでも彼女の強さを忘れた者はいない。


【名前】 バニラテ・スターバックス 【種族】 ゴースト

【年齢】なし【職業】・霊・剣士・王【レベル】99

【称号】・魔王幹部・魔剣士・霊王・人間殺しヒューマンスレイヤー

    ・魔王候補・魔王討伐・元勇者・不老不死……etc

【HP】600【MP】999

【攻撃力】300【防御力】100【魔力】999

【素早さ】900【魅力】400【運】400

【スキル】・魔素吸収・霊体・勇者の装備の記憶・MP筋力変換・MP防御変換

     ・MP素早さ変換・魔王の加護・HP高速自動回復……etc



そう、この女は現魔王軍幹部にして、前魔王を討伐した勇者の成れの果て、俺の知る限りこの世界の魔物達の中で最強の存在だ。

この女はマズい、本当にマズい、俺が存在がヤバすぎてナーフしようとするぐらいに

桁違いで強いやつなのだ。そんな化け物がリュウを殺しに来ている。

 

俺は見届ける存在、心がない奴とよく言われる。

面白くなるのなら見捨てたりもするからだ。

そんな俺がリュウの事を助けたいと思っている。なんだかんだ10年も関係を続けた仲だからか……


「何はともあれ、早くリュウに伝えないと……」


その時だ、俺の体が霧状になって消えてしまった。

コンマ数秒、一瞬の攻撃だった、霊気の斬撃が俺の存在をこの世から消し去った。


「どうかされたのですか? バニラテ・スターバックス様」

「うん、久々に会ったから挨拶をね」

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