第31話 最低な初夜

 リュウが村の用心棒として住み始めて2週間が経過した。すっかり馴染んでいる。しかし、ドラゴンであることに変わりはない、今の人間の姿は仮の姿、ときどき元の姿へ戻ってMPを回復しなければならない。もしくは、高いポーションを買って定期的に飲むしかない。


「あら、昨日は遠出してたの?」

マキの母が不思議そうに聞いてきた。

「え、ええ、またドラゴンが現れたので」

「そうよね、怖いったらありゃしないわ」

「ハハハ……」

自分がそのドラゴンですと言えずにいたリュウは笑って誤魔化す。

「また、お母さんドラゴンさんの悪口言って」

マキが突っかかる、リュウはまた親子喧嘩しないかひやひやし始めている。

「行こう、リュウさん!」

その前にマキがリュウの事を連れて行ったことで争いは免れた。



村の綺麗な川が流れている。

リュウの腕に抱き着きながら、マキは悲しい顔を浮かべていた。

「もう、正体を明かしたらいいじゃないですか」

マキはドラゴンの正体がリュウだと知っている。

命の恩人であるドラゴンの事を悪く言われたくないのだ。

「まあ、人間じゃなくてドラゴンだって知られたらこの村に居られなくなるかもしれないし、マキの家にも迷惑が掛かる」

「そんなことどうでもいいです。」

マキは否定して、そのまま自分の気持ちを伝え始めた。

「もしあなたが出ていくことになったら、私もついて行きます。」

彼女の本気の想いに対してリュウは一度「ダメだ」と言うが、マキの想いは変わることは無かった。「これじゃあ、ますます言えないな」とリュウは笑った。




 それから1週間、リュウの家にマキが夕食を作るようになっていた。

リュウは紅林家の仕事を手伝いながら、村の警備をする生活。マキも一緒に同行することが多いが何故かその表情は不満だった。


「マキ、最近何かあった?」

「……リュウさんが遅いからです」

「はい?」

リュウはポカーンとしてしまった。

マキの言っている意味がわからないからだ。

「お、おれ何かやっちゃった?」

鈍感なこいつに対し、初めてマキが怒り始めた。

「もう、リュウさんがなかなか来ないから、村の人達総出で私を押してくるのです。」

「え、どういう事?」

「リュウさんは私の事、好きじゃないんですか?」

そう言ってマキがリュウの胸の中に飛び込んだ。


俺は知っている、マキが村長からリュウを村から逃げ出さないために、「奉仕しろ」「結婚して子を作れ」と言われていたのだ。そんな言葉を言われていると、リュウを見る目が変わってしまいそうで辛かったのだ。本当にリュウの事が好きなのに、村の皆に言われているからやっている様に思えてしまうのだ。


「私はリュウさんのこと好きです。……ごめんなさい、このままだとあなたの事嫌いになりそうだったから、早く思いを伝えようと……」

マキはポロポロと並みだをこぼし始める。

彼女は明るく振る舞ってはいたが、村の人達からのストレスで限界を向かえていた。

「ごめん、気が付けなくて……」

リュウは謝った。

「遅いです、リュウさんを喜ばせる為にいろいろと学んだのですよ、早く貴方が告白してくれるようにと、それなのに、わたしもごめんなさいこんな形にしちゃって」

マキは泣きながらリュウに想いをぶつけた。

リュウはただぎゅっと彼女を抱きしめて受け止める事しか出来なかった。



 2人の初夜は酷いモノだった、お互いにこうじゃなかったと思っているだろう、痛みと快楽は一瞬で終わり、その後の2人はお互い見向きもしなかった。

 翌日の朝は、村長ご夫妻が赤飯のような物を持ってきた。村中の者がニコニコしながら2人の事を見ている。マキは村の人達の視線にやられたのか気分が悪くなってしまい口を手で押さえた。

リュウは村長からの差し入れを、

「ふざけるのも大概にしろ」

そう言って投げ捨てた。

村長は言い返そうとしたが、リュウの殺気に怖気づいたのか、逃げて行った。

他の者達も帰って行った。


「悪い、マキ、いきなり近所付き合いに失敗した。」

「うんうん、そんなことどうでもいい!」

マキはリュウの行動に喜んだ。なんせあの村長にガツンと言ってくれたのだから、

「すっごく、スカッとしたわ。やっぱり私の好きになった人だわ!」

「え、ああ、そう?」

「今なら昨日の続きが出来る気がする! リュウさん、今夜は寝かせませんよ」


たく、一時はどうなる事かと思ったが、この感じなら大丈夫だろう。

「お、新しい転移者が現れたな!」


俺は2人の側から離れることにした。

末永くお幸せに

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