第23話 寝取られはイヤだ

 紅林マキと出会って15日目、大山リュウがこの山に引っ越してきて二週間が経ったが、村人連中からは未だに警戒されていた。1人を除いて


「父も母も未だにあなたの事を恐れています。」

「まあ、そんなに気にしてないからいいよ。」

ウソである。


 若い者達から偏見の目で見られることは減ったが、ドラクエルの事を知っている者達からは未だに敵意を向けられる。

「あなたが悪いドラゴンじゃないことは伝わったと思うのですが」

マキは毎日のように両親にリュウの事を話していた。

マキの両親は、リュウがあのドラクエルと同じ恐ろしい存在じゃない事は理解できた。しかし、ドラゴンという生き物がわからない、故に恐ろしいのだ。


「もう『あのドラゴンの所には行かなくてもいいんじゃないのか?』って言うんですよ。私のこと人柱みたいに差し出しておいてですよ! 信じられません!」

マキはリュウの体にもたれながら自分の両親の悪口を言っていた。

「で、君はここに来てもいいの?」

「良いんです、どうせやることも無いですし」


マキはここに来る前に家の仕事を済ませて来ている。

宿題は早めに終わらせておきたいタイプなのだ、なので気にせずにリュウと会うことが出来る。リュウは彼女の健気な頑張りに気付いていない。マキ自身も変に気を使われるのを嫌うだろうし、これでいいと思う。


「リュウさんの向こうの世界でのお話聞かせてくれませんか?」

「ああ、いいよ! じゃあ今日の話は……」

リュウはマキに生前の世界の話をしている。ここ最近のマキの楽しみだ。

マキにとって漫画やアニメ、映画の娯楽の話は想像を膨らませ、学校や友達の話は村での閉鎖的な生活をしている彼女にとって、とても面白く感じるのだ。

「いいな~、私も学校ってところに通ってみたいです。」

「そう? 毎日行っていたら飽きるよ?」

「毎日違う事を学べば良いのですよ! 学びの場なのですから!」

「あ、ああ、そうだね……」

真面目に勉強してこなかったリュウにとって、彼女の真っすぐな言葉は効果抜群だ。




 今日もマキと楽しい時間を過ごせて満足していると思っていたが、何故か不満そうな顔を浮かべているリュウ、彼女が帰ってからずっとこの調子だ。俺は何がそんなに不満なのか聞いてみることにした。

「おい、なんで不満顔なんだよ。いい友達が出来てよかったじゃないか」

「まあ、そうなのだが……」

リュウは何か言いたげだった。ドラゴンのくせにモジモジしながら俺に相談したいことがあるのが感じ取れる。一向に言い出せないコイツに俺も痺れを切らし、「お前あの子と番いつがになりたいのか?」と聞いてみた。すると「動物みたいに言うな!」と怒られた。どうやら図星らしい……


「なあ、リュウ、ムラムラしているのか?」

「ド直球に言うな、そんなんじゃない、もっと仲良くなりたいんだ。」

「異性として見ている訳ではないと」

「ああ、一度もそんな風に見たことは無い」


そりゃそうだ。コイツの肉体はドラゴンなのだ、子孫を残すにはドラゴン出ないといけない、いくらマキの匂いを嗅いでも、例えマキの裸を見たとしても興奮することは無いだろうよ。


「ごめん、嘘ついた。時々パンツの色が気になったりする」

「……」


 しかし、このまま進展がないのも面白くない。

マキが男作って嫉妬に狂うコイツの姿を見て見たいと思っていたが、案外そんなことはせず、いつものように山から温かく見守っている様な気がする。つまり、このままだと面白くないという事だ。


「寝取られ展開を期待していたが、なさそうだな……」

「あ? なんて?」

「そもそも向こうは付き合っているとか思っていないか!」

俺が嫌味ったらしく言うとリュウは大粒の涙を落した。

「おいおい、悪かったよ泣くな……」

「うわああん、寝取られはイヤだ」

「だから、付き合っても無いのに寝取られとか無いって! ただお前が片想いで終わるだけだ。」

「うわああああ嫌だ」

ドラクエルが今の自分の姿をみたらどう思うだろう。

コイツとドラクエルが言い争っているドタバタ日常物語があったら面白そうだなぁと、考えている場合じゃない。ドラクエルはいない、今ある素材で美味しいモノを作るのが俺の役だ。


「リュウ、取りあえず今日は寝ろ! 明日考えよう……」

「なんか案があるのか?」

「ああ、あるぜとっておきのな!」

「じゃあ、たのんます」


 リュウは一瞬にして眠りに落ちた。

「さて、久々に俺の力をフルで使うとしますか。まず【スキル生成】からか……」



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