第22話 大空のデート

 大山リュウが紅林マキと出会って10日目の早朝、上空を巨大なドラゴンが飛んでいた。リュウがあんなに楽しそうに飛び回ったのはいつぶりだろう。


 マキを助けた後、彼女はお礼として果物の入ったカゴを渡した。

その後、彼女は手を振って笑顔で帰って行った。思っていた以上にリュウが喜んでくれたからだ。喜んでもらえてホッとしたのだろう。なんせ、人外のドラゴンに何をお礼すればいいかなんて分からないからな。


 「いや~、マキちゃん可愛いな~、いや、キレイ系か!?」

ニマニマしながら米粒サイズのリンゴを噛まずに胃袋に放り投げるドラゴンのリュウ、完全に恋している。俺はちゃんと親切に伝えてやる。

「言っとくが、ドラゴンと人間の恋愛なんて出来ないからな?! そもそも種族が違い過ぎる。ドラゴンって生き物は爬虫類でもなく人類でもなく猿人類ですらない、ドラゴンって種族なんだ。人間とエルフ、人間と鬼とかなら子を作ることは出来るがな。」

「五月蝿いな、おれは暇なんだよ、ただ女の子と会話出来るだけで嬉しい」

「ピュアだな」

「やかましい!」



 翌日もリュウはこの場で村を見ていた。守り神みたいだ。

「はぁ、またマキちゃん来ないかな~」

「そんな毎日来るわけ……あ、来た」

マキはあれから毎日来た。

村人がドラゴンが暴れないようにと、供物をマキに毎回持ってこさせるのである。悪い言い方をすれば生贄である。最初こそ、供物を渡したら即変える関係性だったが、徐々に2人、いや1体と1人の距離は近くなっていく。

5日もすれば他愛のない会話が、7日もすれば笑顔が、そして10日目にリュウはマキを自身の顔に乗せて大空へと羽ばたきデートしようと持ち掛けた。


「ダメかな?」

「それがあなたへのお礼となるなら……」

「……そ、そうか」

「冗談ですよ! 行きましょう! アナタが見ている光景私にも見せてください! これは私からのお願いでもありますからね?!」



 そして今に至る、あいつ等は楽しそうに大空デートをしている。

リュウは久しぶりに出会えた異性との出会いを

マキは初めて体験するドラゴンとの交流を



「村の皆は未だにあなたの事を恐れているのですよ!」

「ハハハ……ドラゴンだからね、それに転生前は悪名高い奴だったらしいし、災華さいかのドラクエルなんて言われていたんだよ! 災害みたいで物騒だと思わない? いや実際に物騒な化け物だったんだけど……」

「でも、今のあなたは違う、私を助けてくれた命の恩人大山リュウ。あ、命の恩ドラゴンって言った方が言いかしら?」

「言い難かったら恩人でいいよ、心は人間だし!」

「フフフ、おっきな人間さん!」


2人の間は一気に近づいた。

「お2人さんもうすぐ夕方になるぜ!」

「おいおい、お前はおれのお母さんか!」

俺は親切に伝えてやった。「村人連中がマキの事を心配している」と、しかし「もう少しだけ待ってくれ」とリュウは言う。俺に言われても「俺はマキの母親じゃない」と言い返す。お前らが門限守ろうが守らないが知った事ではない。


「もうちょっとだけ待ってくれないかな……」


 リュウがマキにそう伝えると、何処までも続きそうな広大な世界から太陽が姿を消していく、赤い光が地平線を温かく照らしているのだ。昼時に見える太陽と違い夕日は肉眼で見ることが出来る。ただそれだけ、何ともない光景だ。

 しかし、山に囲まれた村に住むマキには、この光景は幻想的で美しく感動したのだ。思わず立ち上がり涙を流している。

 その美しい光景は終わってしまった。そして今度は綺麗な夜空が映し出される。


「今日の星たちは一層綺麗に見えるわ……」

マキはリュウの顔に乗って上空を見上げている。


「いつもと同じ、昨日と同じ、光景だけど何処で見るかで結構変わるでしょ」

「ええ、誰と見るかもね……」

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