第21話 初めてのお礼
紅林マキの暮らしている村は山の麓にある。
「よ、良かったら送っていきましょうか?」
「おい、リュウお前まさかその図体で運ぶってのか?」
「この子を物みたいに言うなよ……」
大山リュウは「夜道で女の子1人で帰らせるのは危険だ」と柄にもない台詞を吐いてきやがる。女の前だからカッコイイ所を見せようとしているのだ。ドラゴンなのに……
「お前みたいな、奴が村の傍まで来たら村人共がビビっちまうだろ?!」
「近くまで送っていくだけだよ……」
リュウはそれでも考えを変えない。
大きな手を広げ、人形サイズの紅林マキを乗せる。
彼女はまだ震えていた、命の恩人とはいえ相手はドラゴン、怖いモノは怖い。
「こ、怖くはないよ、取って食おうなんて考えてないよ」
リュウは必死に彼女を落ち着かせようと頑張るが、中々打ち解けてくれない。
彼女をゴツゴツした手で大事に抱えながら、山を下りたリュウは村の傍で助けた紅林マキを降ろした。村では真夜中だというのに明かりがしつこく騒がしかった。村総出で捜索しているのだ。
「さあ、行って……」
リュウは優しく彼女の後ろを押した。
「あ、ありがとうございました。お、お礼は必ず……」
紅林マキは最初の頃より打ち解けている様に見えた。
「お礼はいいよ、ほら家族が心配しているよ?」
夜が明け、太陽が眩しく照らしてくる。
「あ~、勿体無いことしたー」
こいつは起きてからずっとブツブツとこの台詞を言っている。
「ワンチャンあったよな、良い感じになってそれから……」
「いや、満に一つも無いだろお前ドラゴンだぞ!」
「それは言わないでくれよ……」
やっと面白い物語が始まると期待していたのだが、一時のイベントだったらしい。
コイツはさっきから、昨夜の女からのお礼を断ってしまった事を嘆いていた。
あの後リュウは村近くの山にどっしりと引っ越しをした。そうコイツはもしかしたらお礼をしに助けた女が来てくれるのではないか、そしてそこからラブストーリーが始まるのではないかと期待しているのだ。
昼過ぎ、大山リュウは遠くから村を見守っていた。
怪獣みたいな巨体だ、村からでもコイツの存在が確認できる。
村の奴らは何事かと慌てている。
「何故、
「もしかしてマキちゃんの言っていたことは正しかったの?」
「いや、奴は近隣の村々を滅ぼして来たドラゴンじゃ。油断するな!」
「でも、確か打倒されたって……。もしかしたら別のドラゴンなのかも?」
村はリュウの話題で溢れていた。昨夜の人さらいに襲われたマキという女の事件が薄れるほどに。それが彼女にとって良いか悪いかは知らないが……
しばらくボ~っとリュウが眺めていると、村の住民も危険ではないと判断したのか、仕事に取り掛かったり、家事を始めたり、外に遊びに行く姿が見れ始めた。
「残念ながらあの女は来ないらしいな……」
「い、いや、まだ夕方にもなっていない……」
俺は諦めかけていた時、草木の間から昨日の女がそろ~と、こちらの様子を伺いながら現れたのだ。リュウは喜びのあまり自身の大きな両手をを地面に打ち付けた。軽く地震が起きてしまい彼女は尻もちを付いてしまった。
「ご、ゴメンね……つい興奮しちゃって!」
「い、いえ、大丈夫です! どうしても昨日のお礼がしたくて」
マキはちゃんとお礼をするためにここに来たのだ。昨夜の人さらいから受けた傷、特に心の傷はまだ感知していないハズなのに立派な事だ。それに村の連中を説得させるのに大変だったろうに。
俺が色々と頭の中で、この女の心情とここに来るまでの出来事を考えている間に、リュウはマキから受け取った。果物の入ったカゴを受け取っていた。
本来なら3.4日分ほどある量の果物だが、巨大なドラゴンであるリュウにとってリンゴ一個は、人間にとっての米粒である。
それでもリュウは大喜びした。
そう、大山リュウはこの世界に来て初めてモノを貰ったのである。
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