第12話 勇者の一話目

 カリーナから面白いモノを見せてくれると聞いた俺は、それを信じてカリーナの事は見逃すことにした。一体どんな面白いモノが見れるのか、期待を膨らませながらもう1人の迷子さんの勇者カイを探しに行く、散歩も飽きたとこだったので、俺はスキル【全知の目ぜんちのめ】を使った。


 カイは路地裏で座り込んでいた。顔を伏せて体育座りをした状態でじっとしていた。時折すれ違う通行人に顔を見られないために、「あれ、もしかして勇者様?」と言われているのを聞いてない振りでごまかせるからだ。


「おいおい、探したぜ! どうしたんだよ。こんな陰気な場所でうずくまって、失恋でもしたのか? 志望校に落ちたのか?」

俺はカイの傍まで行って嫌味を言ってやるが、コイツは失礼にも一言も返してこない。あまりにも反応がないので「そうじゃないだろ、くだらない事でクヨクヨして!」と言ってやった。するとやっと反論しだした。


「うるさい……」

「お、やっと口を開いたか! 全く、自分が情けなくなったのか、仕方ないだろそれが今のお前の実力なんだから。変なプライドなんか捨てて謝ってこい! そしてさっさとお前の物語を始めて来い!」


俺はカイに活を入れてやった、コイツがここでウジウジしてもらわれちゃあ、物語が進まないからだ。せっかく面白そうなイベントが始まりそうなんだからな! 


「はあ、わかったよ。俺の能力って結構良いのがあるんじゃないのか? 全然魔物に勝てないのだが? もっとこう無双できる感じだと思ってたのに……」

「それはシュメルとアデリナが優秀だからだ。あまりあいつ等と比べるのはやめておいた方がいい、アドバイスはゆっくりでもいいから経験を積むことだ。お前の【成長率2倍】があれば、シュメルとアデリナに早く追いつけるだろうよ!」

「本当か?! お前の事信用するからな」

「ああ、死なない程度に頑張ってくれ! 言っておくが、この世界はゲームの世界じゃないんだ、もし死んだら蘇生は無い、くれぐれも注意してくれ」

「ああ、わかったよ! 死ななければいいんだろ!? 何回もしつこいな、それにまだここは序盤の町、お前の言う通りレベル上げしながら魔王討伐に勤しむよ。」

カイは機嫌を取り直して仲間たちの元へ戻って行った。

「たく、ゲーム感覚でやってやがる……」


 気持ちの良い朝がカイたちを叩き起こす。今日も依頼を受けるため、カイたちはアデリナのギルドカードを頼りに依頼を受ける。今回の依頼は沼地にいる魔物スライムの討伐だ。前回のゴブリンと違い、この魔物は水やヘドロが魔素というモノを浴びて自然発生した魔物だ。なので気兼ねなく討伐することが出来る。


火球ファイアボール

カリーナの杖から火の玉が放たれ、目の前にいたスライムに食らわせる。スライムは動かなくなりじゅわじゅわと音を出しながら蒸発していく。

「うえ、臭い匂い。だから、魔物討伐なんて嫌なのに……」

今回、いつも何処かへ行ってしまう。カリーナを逃がすまいとシュメルが見張っていたおかげで、こうして先頭に参加してくれたようだ。スライムは魔法で対処するのが一番なのだ。

「流石、あのリフャルド家の一族だ。魔法の事なら何も心配いらないだろう。しかし、それほどの腕がありながら何故一緒に依頼をこなしてくださらないのですか?」

シュメルは不思議そうにカリーナに聞いた。

「別に、ただ汚れたくないだけ……、それに私はリフャルド家の中でも落ちこぼれの方よ、無理やりパーティに入れられた訳だし、それに……」

彼女はそこから黙り込んでしまった。

「も、申し訳ない……。優秀な者だと聞いていたのですが……。」

シュメルが慌てて彼女の機嫌を取ろうとするが、なかなか聞く耳を持ってくれないカリーナ。一方、カイはカリーナに教えてくれた「火球ファイアボール」を使って、スライムと交戦している。

カリーナと違い、一発では倒すことが出来ず、数発当ててようやく倒すことが出来た。「よっしゃー!」と少年らしく大喜びしていた。


「流石勇者殿だ! もう火球ファイアボールを習得出来たとは……」

「そだうだな、魔法の才がない私が言うのは変だが、魔法の方を極めて行った方が良いのかも知れないな、もちろん弓も覚えておいて損はないぞ! そ、その気があるのなら教えてあげてもいい……」

シュメルとアデリナがカイの事をべた褒めしている。カイはまんざらでもない様子。カリーナは少し離れた場所で見ている、この女が一体どんな事をしてくれるのか見物だ。

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