第9話 ゴブリンの洞穴

 カイたちは早速ゴブリン討伐に行くための準備を始めた。

「武器は持っているが、今回の敵は狭い洞穴での戦闘になるかもしれない、なので短剣が欲しい所だが……」

アデリナは金が全くない事を思い出して、話を切り替える。

「こ、このまま行きましょう。最低限の持ち物は持っていますし、それにアデリナ殿1人だけでもこなせる依頼です。そこまで神経質に考えなくてもよいのでは?」

シュメルがアデリナに聞く、彼女は「まあそうだな」とOKを出した。カイは初めての異世界での狩りにワクワクしている、早く行きたいんだな。カリーナはイヤイヤこの3人にコバンザメの様について行った。


「おい、カイよお前、練習とか修行とかいいのか?」

「ん? どうしたんだロード、そんなの戦いながら覚えていけるんじゃね?」

俺は親切にアドバイスしてやったが、彼は聞く耳を持たなかった。

折角、チートスキル魔法全属性習得可を持っているのだから、カリーナにいろいろ教えてもらったらいいのに、勿体無い奴だ。


 草原地帯を少し進んだ先に洞穴がある。人間数人が雨宿りすることが出来て楽にできるぐらいの広さだ。この場所が魔物のゴブリンの出没エリアらしい。

確かに、洞穴の中にゴブリンの排泄物や残存物が散らばっていた。

「う、気持ち悪い……だから嫌だったのに!」

カリーナが鼻をつまみながら離れた。お嬢様な彼女には厳しかったらしい。

異世界から召喚されたカイも目を逸らしている。

「もっと、こう、なんとかなんないのか? ロード!」

俺に言われたってどうしようもない。

生きているもの、食うし排泄もする。ただそいつが汚いというだけだ。

この汚さには真面目なシュメルも引いた顔になっている。こいつも温室育ちっぽいところがある、こういった現場は初めての様だ。アデリナは流石冒険者と言ったところか、特に何も動じたりしていない。


「兎に角、この辺りに魔物のゴブリンは住み着いているらしい。皆警戒してくれ、カリーナはあまり遠くに行くな! シュメルはいつでも戦闘に入れるように構えてくれ、カリーナは戦闘になったら魔法でシュメルの援護を、カイは……」

そこでアデリナの指示が止まってしまう。

「私たちの戦いを見ていてくれ」

遠回しにお荷物ですと言った。カイもそこまで馬鹿ではない、アデリナが何が言いたいのか察して彼女に突っかかっていく。

「お、俺は役立たずだっていうのかよ!」

「……ああ、そうだ! 無理もないこの世界に来て日も浅いし、知らないことだらけなのだろう? 聖剣もロクに使いこなせていないじゃないか! 道中出くわした魔物に手こずっていたのは、何処のどいつだ?」

カイは「ぐぬぬ」と黙ってしまった。

「これが終わったら、シュメルに剣術を教えてもらえ、魔法の才もあるのならカリーナに教えてもらって……」

「うるさい! お前は俺の母ちゃんかよ!」

カイはアデリナに思春期らしく感情的になって苛立ちをぶつけた。


 2人が言い争っている中、物陰からこちらを見てくる者がいる。

真っ赤な目を持ち、早く人間を殺したくてウズウズしているおかしくなった存在、魔物の姿が……

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