黒鳥の道案内
ラゲク
第一召喚 勇者 時折カイ
第1話 時折カイ
巨大な城壁を張り巡らせた難攻不落と名高い城、このディレスティア王国の中心に立つ立派な城、名をガルダ城と言う。初代国王ガルダ・バンレットが建国した時に作られた城なので、彼の偉大さを示すためにそう付けられたのだ。
英雄と呼ばれ、民衆に慕われ、この国は大きくなっていった。そこらの魔物に怯える恐怖を国民が忘れるぐらいに。しかし、近年その平和が失いつつある。魔王が誕生したのだ、誕生と共に増えた魔物の数、伝染するように広がる狂気。
何か手を打たねばと考えた現国王ラファド・バンレットは、国一の召喚術氏フェルドレ・リフャルドに異世界から勇者を召喚するよう命じた。
そして今まさに勇者を召喚しようとしている。
フェルドレが何かブツブツと呪文を唱えると、床に巨大な魔法陣が現れた。
久しぶりに見た魔法陣を使ったちゃんとした異世界召喚に、俺は少しワクワクしていた。何故ならこうして召喚された奴には、何かしら特別なスキルを持っているからだ。
「おい、どうなっている?」
魔法陣から稲妻が迸る、天井の隅に隠れている俺の場所まで来そうな勢いだ。国王はなかなか現れない勇者に焦りを感じているようだ。それもそうだ、こんなに魔石も使って労力もかけたのに、結果は残念でしたなんて事になったら大変な事態だ。只でさえ、今の国内の情勢はよろしくないというのに……、「ククク……」俺は嘴から笑いが出てしまった。そうなったらなったで面白そうと思ったからだ。
ドゴンッと大きな音が鳴ったと思ったら、魔法陣の周りを砂煙が舞っている。稲妻も消え、国王や周りで見守る者たちに落胆の表情が現れた。俺はそんな表情などしない、こいつ等みたいに見るのは初めてではないからだ。
「おお、やった! やったぞ!」
国王とその家臣達は盛大に喜んだ。
召喚術氏フェルドレに至っては長距離マラソンでも終えたみたいに、大量の汗でべちゃくちゃになった服を着たまま、床に大の字になって倒れてしまった。普段難しい顔して仕事してそうなコイツのこんな姿を見れただけでもここに来た甲斐があったもんだ。近くにまで行ってお疲れと言ってやりたい。
「皆、これでこの国は安泰だ! 召喚の儀式は成功である!」
国王ラファド・バンレットは、家臣達に腕を天高く上げ威厳を示した。
全く、まだどんな奴かも分かっていないというのに、果たして鬼が出るか蛇が出るかなんてな、魔法陣を使ってまで召喚したのだ、万一にも悪い奴は出てこないと思うが……
俺はつい召喚者の傍まで来てしまった。気になって気になってしょうがなかったのだ。一体どんな顔した奴なのか、どんな性格の奴なのか
「おい、なんだその鳥は!? 何処から現れた?」
国王が俺に対して何か言っているようだが、俺の耳には入ってこなかった。
「魔物?! ではないな……、知性がありそうだ。ただの鳥なのでは?」
「いや、コイツはロード! 三つ足のロードだ。」
どうやら俺もかなり有名になったようだ。
「三つ足って、普通に足2本だぞ。」
「知らねえよ、町の連中がそう言っているんだよ! 世界中を旅しているとか、不幸の象徴とか、神の使いとか色々と言われている。なにより……」
「お前ら、そんな事よりもコイツが気にならねえのか?」
俺はボ~と突っ立ているこいつ等に質問した。
モブみたいな奴らは、俺が喋ったことに対する反応もモブっぽかった。喋る生物なんて珍しいとは思わんがね。まあ、井の中の蛙のこいつ等にとっては珍しいか。
「この鳥の言う通りだ、今はこの鳥に構っている場合ではない!」
国王はそう言って、ずかずかと重たそうな身体を動かしこちらに向かってきた。
しっかし、本人が居る前でそんなこと言うかね普通。あ、俺は鳥だけど……
「さあ、名を聞かせてくれ! そなたの名は?!」
勿論、召喚された勇者様は困惑していた。おいおい、いきなり呼び出されて戸惑っているんだから、もっとこう順序良くできんのかね? この国王はコミュ障か? それともずっと王だからか、自分中心で世界は回っていると思っている社会不適合者か? なんにせよ、コイツの今の現状を教える必要はある。
「おい、お前大丈夫か? あ~鳥がいきなり喋って驚くのも無理はない。まあ、薄々分かりかけているとは思うが、お前は異世界転生されたんだ。たぶん、勇者としてな。とりあえず、お前の名前を教えてくれないか? ちなみに俺の名はロード、三つ足のロードだ。」
「ぼ、僕の名はカイ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます