再会の夜行列車

薬袋 灯火

不幸な女性の再会

自信を無くした私は、あの日車に轢かれて……気づいたら、知らない電車の中にいた。

「ここ…どこだろ?病院にいたハズなのに…」

最近私は不運なことが多かった。それこそ不幸な事故で死んじゃうんじゃないかってくらい。

それでも軽い打撲で済んだのは、幸せなことなのか?それでも、どこかもわからない場所に飛ばされているってことは、やっぱり、不幸か。

「……お、お目覚め……ですか?」

車掌の制服を着た男の人が車両の扉に隠れて話しかけてきた。わざわざ、隠れる必要もないのに……

「あ、あのここはどこですか?あと、あなたは……?」

私がそう聞くと男の人は少し顔を出しながら答えた。

「あ、お、僕はここの電車の車掌です。あなたに危害も加えるつもりは毛頭ありませんので……あの、怖がらなくて大丈夫ですよ」

怖がってるのは隠れていうあなたの方でしょう……その言葉を私は飲み込んで黙っていると、車掌は続けて話し始めた。

「ここはどこかと聞きましたよね?ええっと、なんと言ったら良いのでしょうか……生きる世界と亡くなってしまった世界の狭間とでも言いましょうか……」

「……は?」思わず唖然としてしまった。ということは私は死にかけているの?

「あ、いやすみません!あ、説明下手ですよね!僕まだ新人なもので!慣れていなくて……」

オドオドしながら車掌は話す。

「ここは再会の夜行列車と呼ばれています。生きた世界と死んだ世界を繋ぐ仲介所というものでしょうか。」

「それは……なんで存在するの?」

パッと口から出た疑問だった。

「ここの空間は……僕が作りました。……多分。」

衝撃なカミングアウトだった。「なんでここをつく……」

聞こうとした瞬間、電車が停車した。

「……着きました。あなたに会いたがっている人。関谷 暁人せきや あきと。」

「……え、あ、あきとって……。」

私の知っている暁人さんだとしたら、同じ会社の方の同僚の関谷暁人だ。でも、そこまで親しくなかったはずだ。なのに……今更……。

「話さないと……分からないこともありますよ。」

そう車掌さんが言った瞬間、私は車掌さんに背中を押されて、追い出されてしまった。

「関谷様はおそらく、駅のホームに待っていれば来るかと……。それでは良い旅を……。」車掌さんはそのまま電車のドアを閉めた。

そんなこと言っても霧のせいで何も見えないんだけど……。

この場で動かない方がいいと考え、私はその場から動かないことにした。


しばらくして、コツコツと靴音がし始めた。関谷さんだろうか。私の真後ろで靴音は止まった。これだけ聞いたら完全にホラーだ。トントンと肩を叩かれたので、振り返ってみると男の人が立っていた。……この人が関谷さん?

「関谷……さん?」私が聞くと関谷さんは頷く。

「関谷です。お疲れさまです。事故大丈夫でしたか?」

「え、あ、はい……え、なんでその事……だって関谷さんは数日前に辞めたでしょう?」

「ああ、まぁ……同僚の友達に聞いたんで……。」

「あの…わたしに会いたいっていうのは…?」

ああ〜と思いついたように言った。

「まぁ、無理に会わなくても良かったと思ったんだけどね……。あの、俺……ずっと好き…だったんだ。ずっと言わないつもりだったんだけどね。」

「あ、す…本気で?」

「うん、本気なんだけど、僕こんな風になっちゃったし言えなかったんだよね……」

言えなかった?もしかしてもう……。考えをめぐらせながら下を向くと、関谷さんが私の顔を覗き込んできた。

「今の言葉は、そんなに気にしないで。病気になって死んでしまって、好きな人にも伝えられないまま……で。でもせっかくこんな機会をもらえたんだから、最後の時間お話……したいな。」

「あ、はい。最後ですもんね。」

「まぁ僕が言いたいことを一方的に話すかもしれないですけど……」

私は彼の目を見て真剣に話を聞こうと向き直った。

それを見て、彼も微笑んだ。

「実は僕が君に言いたいのは、好きってことだけじゃ無いんだ。僕からはもう一つ、自信を持ってって言いたかったんだ。」

「え?」そんな言葉が出てくるとは思わず、変な声が出てしまった。

「本当に努力ができているけど周りに圧倒されて本領の力が発揮できていないように見える。僕はもういないからうまくフォローすることもできない。ごめん。でも、見てる人はちゃんといるから。」

「あのっ…」私が言いかけた途端、車掌さんが声をかけてきた。

「すみません〜そろそろ戻らないと、あなたが危険になってしまうので…」

後ろから関谷さんに肩を軽く押された。

「行っておいで。」

言われるがままに、私は電車に乗った。帰りの電車で車掌さんが私に話しかけてきた。

「いかがでしたか?死者と話すのは。」

「ん?死者?」関谷さんは会社は辞めていたけれど死んだわけではないはず…

「最初に言いました通りここは生きた世界と死んだ世界の境界線です。なので、信じられないかもしれませんが関谷様はすでに亡くなられていますよ。」

…亡くなっている?関谷さんが?

「なんか不治の病だとか…そんな話でした。最期にちゃんとお話できたんですね。」

「まぁ、一方的でしたけど…でも前を向けるような話ができたと思います。」

「左様でございますか。そろそろ病院に到着します。」

そう言って車掌さんは到着の準備をしていた。

「あの、最後に質問いいですか?」

「え?あぁ、それはちょっとできないんですよ。すみません。」

「そう、ですか……」

「では、お疲れ様でした。さようなら。」

このやり取りの後はよく覚えていない。ただ、関谷さんと会ったこと、関谷さんが亡くなっているという事実だけ覚えていた。お墓参りに行こうと思いお墓の場所を聞き、向かった。

「私はあの時の言葉に背中を押されて、役員候補まで上り詰めました。まだ頑張りたいので見ていてください。」

そう呟いて、私は関谷さんのお墓を去りました。

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再会の夜行列車 薬袋 灯火 @shirosame0228

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