第33話 嘘だよ

2人がまたネタの話をし始めたので、わたしはそっとショータと、2階の部屋に避難した。



ベッドに座っているわたしの正面に立ったショータは、深く頭を下げた。


「今まで嘘ついてて本当にごめん。でも、紗羅への気持ちは本当だから」


恐る恐る顔を上げたショータが見たのは、笑ってるわたしの顔だったから、驚いた顔をされた。


「怒って……ない?」

「怒ってない。わたし、本当は彼女がいるとか言われて、ふられるんだと思ってたから。それに、もしショータが本物の義理の弟だったら、365日ずーーっと、あの人たちのネタにされるところだった」

「あ、じゃあ?」

「ショータが義弟じゃなくて良かった」

「許してもらえなかったらどうしようかと思ってた」


ショータは力が抜けたみたいにその場に座り込んだ。


「わたしも、よく考えたら、おかしなところいっぱいあったのに、気がつかなかったから」



初めて会った日、リビングにいた、絡み合ってる見知らぬ男女とわたしのところに、後から入ってきた男は玄関のドアを開けることができた。

家に入った後、一度外に出ても、また戻って来ることが出来たってこと。それはつまり、彼は、8桁の暗証番号を知っていたことになる。

「誰か」に聞いて。


ショータは、「鍵を持って出るのを忘れた」と言った。

その後すぐに「暗証暗号を書いたメモを無くした」と言い直したけど、知らなかったんだ。この家には鍵がないってことを。


それに、あの事件の後病院で、「20歳超えてるから親に連絡はいかない」というような主旨のことを言っていた。あの場にいた全員が未成年じゃなかったことになる。


ずっと昼間いなかったのは、バイトに行っていたと教えてくれた。


義父にも似ていなくて当たり前。全くの赤の他人だったんだから。


そして、ショータは「大人っぽい」んじゃなくて、実際年上だった。

年齢がわかってしまうと、ショータは実は童顔だったことがわかった。


立ち上がって、座っているショータに手を差し出した。


ショータはその手を掴んで自分も立ち上がると、そのままわたしを引き寄せた。


「長い付き合いだった戸田が俺の言い分なんか聞きもせず、あいつの彼女とのこと疑って出ていったのに、紗羅は初めて会った俺のことを信じてくれた」


ショータは、祥太くんの彼女に迫られてた方なのに、祥太くんはショータが彼女に手を出したって思ったんだった。


「あれがはじまり」


ショータのスマホが鳴った。


「出たら?」

「……いい?」

「うん」

「ここで話しても? 長くなるかもしれないけど」

「いいよ」

「書くものある?」


机の上にあったルーズリーフとシャーペンを渡した。


ショータはスマホをしばらく見てから、応答ボタンを押した。


「……見たよ。これ、四面体の体積だから、外積使って、直接法線ベクトルをまず求めて……そう。それが垂直な単位ベクトルだった? ……そうそう。内積とって……うん。1/3かけた?」


ショータは話しながら何かを書いている。


呪文?

何を話しているのか全然わからなくて、ぼーっと聞いていた。


そんな話が10分くらい続いて、電話を切ると、ショータは書いていた紙を写真に撮って送信した。


そこまで終わってから、ようやくわたしの方を向いた。


「ごめん、思ってたより時間がかかった」

「何の電話?」

「カテキョ―してる子がちょくちょく電話してくるんだ。来年受験だから、夏休み中はいつでも電話してきていいって言ってる」

「いつも電話してたのはこれ?」

「そう。長いし、紙とかペンとかいるから部屋に戻ってた。聞かせられない話でもしてると思ってた? 他に気になってることある?」


ショータが優しい顔でわたしを見つめる。

わたしは、どうしようもなく、この顔に弱い。


「ショータ、好き」

「俺の方がもっと好きだって」


ショータがわたしをベッドに押し倒した。


「全部正直に話したから、もういいよな?」


指を絡めながら、キスをしてくる。


服の中に入れてきた手が背中の方にまわり、ブラのホックのところまでたどり着いて止まる。


「エロ展開、OK?」


「そこは、ママとお義父さんに聞いてみないと」


「やっぱそうなるんだ……」



ショータがわたしの上に倒れ込んだ。


しょんぼりするショータがかわいくて、頭を撫でると、不貞腐れたような顔でわたしを見つめてくる。


だから、もう一度キスをしてくれたら言うつもり。


「今のは嘘だよ」って。






END

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嘘つきは誰ですか 野宮麻永 @ruchicape

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