第13話 怖くない

「ショータ! 大丈夫?」


急いでショータのところに向かうと、ショータが自分の傷を舐めていた。


「病院へ」

「大したことない。ちょっとかすっただけ」


目の前に差し出された腕は、表面にスッと赤い線が見えたものの、ショータの言うとおり、すぐに消えそうなくらいの傷だった。


「消毒しないと」

「これくらい、舐めてりゃ平気だって」

「だめ! 言うこと聞いて!」

「それより警察は?」

「呼んでない」

「え? さっき……」

「手が震えて、緊急通報のアイコンがタップできなくて、咄嗟に叫んだけ」

「だったら今からでもすぐに警察を」

「いい」

「なんで?」

「警察は呼びたくない」

「何言ってんの? あの男逃げたままなのに? あいつまた来たらどうすんの?」

「ごめんね……ショータは怪我したのにこんなこと言って」

「こんなの怪我に入らない」

「ショータがいたら怖くない。でも、誤解しないで。あいつをどうこうして欲しいわけなじゃい。そばにいてくれるだけでいい。それだけで心強い。次からは気をつけるから」

「バカなの?」


そこでショータの顔を見たら、途端に涙がこぼれた。


「なんだろ……今頃になって……やだ……何これ……ほっと……したのかなぁ」


涙を拭った自分の指が震えているのに気がついた。


ショータは何も言わずに、わたしを引き寄せると、ぽんぽんと優しく背中を叩いた。


「シャツ濡れる」

「いいよ、すぐに沙羅を押し倒して脱ぐから」

「ふざけないでよぉ……」

「まじめに言ってるって、さっきも言ったじゃん」


それでも、ショータはそのまま、ずっと、わたしの背中をぽんぽんとしているだけだった。

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