嘘つきは誰ですか

野宮麻永

第1話 事後報告ですけど何か?

この人は一体誰なんでしょう?


ダイニングテーブルを挟んだ向いの席に、知らないおじさんが座っている。

そして、そのおじさんの隣に、わたしのママがいる。



今日は大学が終わったら真っ直ぐに帰って来るように言われ、その通り帰って来ると、こうなった。


「紗羅、こちら戸田総士さん。総士さん、娘の紗羅です」

「初めまして、紗羅ちゃん」


えーっと、この状況って何?



「わたしたち、結婚したから」



満面の笑みを見せるママ。


はぁぁあ???


結婚「する」じゃなくて? 結婚「した」?

事後報告?

そんな大事なこと一言も相談なしに?


「総士さんには高校生のお子さんがいてね、今はお母さんと暮らしてるんだけど、高校が夏休みに入り次第、こっちで一緒に暮らすことになってるから」

「ごめんね。いきなりでびっくりさせて。息子は、祥太っていうんだけど、今受験生で、こっちの大学を受けたいっていうから、美奈ちゃんの提案で一緒に暮らすことになったんだ」


はいっ?


「祥太には、自分のことは自分でするように言ってあるから、紗羅ちゃんに迷惑をかけることはないと思うんだ。夏休み中、昼間はずっと予備校に行っていていないし」

「紗羅の作るご飯は美味しいもんね。祥太くんにも作ってあげてね」


待って、待って、待って。

一度に情報量多すぎでしょ?

高校生の息子?

祥太?


「ママ、ちょっと来て!」

「え? なぁに?」

「すみませーん、ちょっと失礼しまーす」




ママをわたしの部屋まで引っ張って行って、思わず壁ドン。


「説明して! これ何なの?」

「何って……紗羅が言ったんじゃない」

「わたしが? 何を?」

「高校生のイケメンがいるシングルファザーと再婚したら、ときめくネタを提供してくれるって」


そういえば、そんなこと、言った……

言った気がする……


「すっごいいろんなコネ使いまくって相手探したんだから、約束守ってよ」

「本気で言ってる?」

「もちろん! それに、ちゃんと定番の『旅行』も計画済みだから!」

「嘘でしょ?」

「本当!」

「そうまでしてネタが欲しいの?」

「そろそろまた連載が欲しいの!」


あまりのことに、思考が停止してしまった。



ママの職業は漫画家で、47歳になった今でも、中高校生を対象とした学園恋愛漫画を描き続けている。

友達のお母さんと比べて、ちょっとお花畑な人だとは思っていたけれど、まさか漫画のネタのために再婚までするとは、考えてもみなかった。

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