家族無双~チートスキル【深淵】を持つ俺だけでも十分なのに家族全員強すぎて~

大田 明

プロローグ 家族無双

 俺たちが住んでいる世界には【ゲート】という別次元へ繋がる空間がある。

 これは現れる場所も、時間も、数も、全てが不定期ランダムで国の力だけでは対処しきれず、国民が協力してこれを攻略するのが一般的とされている。


 門の中にはモンスターがおり、力の無い者が入ってもどうすることもできない。

 モンスターの能力は様々だが、普通の人間が太刀打ちできるような相手ではないのだ。


 苦戦続きの人間であったが、モンスターの研究を続けているうちにとある物を獲得することになる。


 モンスターから採取した血液を分析した結果、驚きのことが判明したのだ。

 その血は毒だらけではあるが血液浄化をし、人間に注入すれば能力が覚醒することが分かった。

 

 その能力を世間では【スキル】と呼んでいる。

 そしてスキルを持ってモンスターと戦い、門を攻略する者を【討伐者スレイヤー】と呼んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 門は突如として現れる。

 空間の歪みが生じ、抵抗なく中に進入することが可能だ。

 

 門の中の造りは多種多様。

 洞窟みたいな時もあるし、クリスタルで形成されている時もある。

 

 そして現在、俺こと堂道太陽どうみちたいようがいるのは城。

 ここも例に漏れず門の中である。


 薄暗い部屋にはたいまつが灯っており、明かりには困らない。

 だがモンスターがうじゃうじゃと出現し、辟易してしまう。


 門の最奥には【クリスタル】と呼ばれる物があり、それを破壊することによって門を閉じることができるのだ。

 もし門を閉じることができなかった場合、門は膨脹し、巨大な爆発を巻き起こす。

 これまでに数度爆発した場面をネットで見たことがあるが、その被害は甚大。

 山奥で門が爆発した時は、山半分が吹っ飛んだのだ。

 こんな物が都市で爆発を起こすようなことがあれば、どうなるのかは火を見るより明らか。


 都市部の門攻略は優先順位が高く、多くの討伐者が都市部の攻略に集中しており、地方に門が現れた時は派遣される形となっている。


「派遣で来たのはいいけど、この辺りにはまともな討伐者がいないんだな。ま、仕方ないかもだけど」

「強いのは都市部に集中してるしね。だからこそ美味しいんじゃない。報酬が」


 そう話すのは俺の姉である堂道あおい

 金色に染めたロングストレートに、耳にはピアスが7つ開いている。

 左に4つ、右に3つだ。

 目にはカラコンを入れていて欧米人のように青い。

 容姿はというと、誰もが振り向く絶世の美女と言っても過言ではないぐらい美しく、そして本人はそのことを自覚している。

 へそが出ているシャツに下はブカブカのズボンをはいており、靴は大きめのスニーカー。

 誰がどう見てもギャルとしか判別できない姿で、彼女は俺の隣に立っていた。


「都市部に人が集まり過ぎた結果、地方派遣の報酬が高まった。次は都市部から討伐者がいなくなりそうな話だよね」

「いなくはならないんじゃない? そうなる前に報酬をまた引き上げるっしょ」


 門に来たはいいが、俺たちは暇を持て余していた。

 すでに一番奥まで到着しているのだ。

 他の討伐者もいるし、父親も一緒に門へ来ている。

 クリスタルをいつでも破壊できるが、一度壊すと門の崩壊が始まってしまう。

 なので全員が揃ってからクリスタルを破壊するのがルールとなっており、こうして皆の到着を待っているというわけだ。


「はぁ、遅すぎでしょ、親父」

「他の討伐者が一緒だろうからね。人を寄せ付けない空気を纏っているのに、他人を守るような人だから」

「本当、良い人よね親父。頼りになるし、自慢の父親だよ。大事にしないとね」


 愛しそうに目を細めてそう言う姉。 

 だが俺は知っている。

 父親のことを思い浮かべてそんな顔をしているのではないと。


「それは姉さんの金になるからだろ。自慢というか、金を生み出す父親だから大事にしようって考えだろ」

「そんなの決まってるっしょ! お金は大事なんだから、金の成る木の親父も大事なのは当然」


 悪い顔で笑う姉。

 俺は呆れながら微笑を浮かべる。


「でも姉さんは家族想いなのも知ってるから」

「はぁ? そんなこと無いし」


 姉は俺の言葉に顔を背ける。

 素直じゃないんだから、全く。


「おお、君たちすでに到着していたのか……って、ええええええええええええっ!?」


 ようやく父親たちが俺たちに合流する。

 一番先頭を歩いていた男性が、俺たちを見て驚愕の声をあげていた。

 驚いているのはその人だけではなく、父親以外の人が愕然として固まっている。


「ど、どういうことなんだ……そいつらをどうやって倒したんだ!?」

「これ? 普通に倒したけど」


 俺の背後にはモンスターの山。

 3百以上のモンスターの死骸が積み重なっており、それを見て驚いているというわけだ。

 父親を抜き、他の討伐者たちはボロボロ。

 この門に出現するモンスターに苦戦していたようだ。

 そして苦戦していたはずの化け物たちを俺が無傷で倒しているんだから、そりゃ驚いて当然か。


「君たち強いんだね……でも時間かかったでしょ」

「君たちって言うけど、これ倒したの太陽だけなんだけど」

「ええっ!? 一人で倒したの?」

「うん。そだよ」


 今回、姉は戦闘に参加していない。

 まるで友人と町に出かけるような、それぐらいの気持ちでついて来ただけだから、隣でのんびりしていただけであるのだ。


「一人でこれだけの数のモンスターを倒せるものなのか」

「それよりみんな揃ったみたいだから、そろそろクリスタルを破壊してもいいかな?」

「あ、ああ。いや、後は俺たちに任せてくれ。君たちはこれだけ活躍したんだ。俺達ももう少し頑張らないと」


 そう言って男たちは部屋の奥にあるクリスタルの方へと駆けて行く。


「親父。手伝いとかしなかったんでしょ?」

「ああ。危なくなったら手助けしてやろうと思ってな。俺が全てやってしまうと、彼らの為にならない。成長するためには危険な戦いに身を投じなければいけないかなら」


 父親の名前は四季しき

 黒髪を後ろで束ね、眼鏡をかけており、その奥にある容姿は美人である姉の父親らしくしっかりと美形。

 背も高く、スーツ姿の彼は女性に声をかけられているところをこれまでも何度も見たことがある。

 年齢は43なのだが……どう見ても20代前半にしか見えない。


 そんな父親はこちらを心配するでもなく、モンスターの山の方に視線を向けた。


「俺にはこういうやり方は無理だな」

「父さんは俺とは強さのベクトルが違うからね」

「親父がやったら消し炭にしちゃうもんね」

「手加減が苦手なんだ。力の操作が難しくてな」


 父親の言動に苦笑いする俺たち。

 そして三人でクリスタルの方を見て、彼らの進捗状況を確認する。


 クリスタルはとても大きく、給水塔の倍ぐらいのサイズがあるだろうか。

 それを剣や槍、あるいは魔術で攻撃をしているが一向に壊れる気配は無い。


「こりゃ時間がかかりそうね。先に帰ろっかな」

「その必要はない。俺がやってやる」


 父親が前方に手を付き出す。

 俺は嘆息し、男たちに声をかける。


「危ないから離れてー。この場所根こそぎ壊れると思うから」

「へ?」


 俺と姉は端って部屋を出る。

 男たちはこれから起こることを知らず、首を傾げながらも部屋の外まで走ってきた。


 次の瞬間――大爆発が起きる。


「ええ……えええっ!?」


 その破壊力にふきとばされる男たち。

 俺と姉さんは呆れ返って、炎の中から顔を出す父親の顔を見た。


「さあ、帰るぞ」

「親父、やり過ぎだから!」


 部屋の中は炎が充満しており、おそらくであるがあらゆる物が破壊しつくされているだろう。

 バカみたいな魔力を誇る父親の一撃。

 これで全力じゃないらしいから、おかしいよな。


「こ、これが【最強家族】と言われている堂道家……一体君たちは何者なんだ!?」


 驚愕の表所でこちらを見ている男たち。

 そんな彼らに冷たい声で父親は言い放つ。


「家族だ。どこにでも普通のな」


 入り口の方へと歩き出す俺たちの背中に「そんなわけあるか!」と叫ぶ男たち。

 確かに普通ではないな。


 でも俺たちは家族。。

 たとえそこに血の繋がりが無かったとしても……正真正銘の家族なのだ。


 今はこうして家族仲良く討伐者として活動しているが、それ以前は最悪な状況にあった。

 全ては、父親の働く会社が潰れたのが始まりであった。

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