答え合わせは卒業後

のあ

第1話

「先輩の卒業式の思い出って何ですか」

 テスト終わり記念と称した駄弁り会で目の前の後輩が突然の居酒屋トークを始めた。オレンジジュースを持ちながら。

「私は好きだった先輩が卒業して会えなくなるってなって周りに心配されるくらい泣いたことですね」

 こちらの回答を聞く前に勝手に話し始める。いつもこんな感じなのでもう慣れたものだ。

「先輩も一生の別れじゃないんだからって言ってくれてたんですけど、それでも私はこの先どうやって生きていけばいいかわからないくらいだったんです。ずっと泣き止まない私を見て先輩がわざわざ時間を作って色々と話を聞いてくれました」

「その先輩も相当かわいがってくれてたんだね」

「私はあくまで慕っている先輩として、先輩の邪魔にならないようにずっと接していたつもりでした。でも先輩には私の気持ちはバレバレだったみたいで。これからも俺のこと好きでいるの?ってはっきり聞かれました」

「うわ、それどんな感じに言われたの?」

「ちょっとだけつらそうな感じでした、多分。そんなこと聞かれるなんて思いもしなかったし私も何を言われてるのかよくわかんなくなったので一生好きですよって叫んでしまいました」

 周りにはまだまだ人がいる状況でそれはもはや周りの見えないカップルの大喧嘩だ。作り話だと思いたいが、この後輩は嘘をつくのが苦手で話を作ったりすることも苦手なのを考慮すると今の話は嘘でも作り話でもないようだ。

「そしたら先輩は突然好きな人が近くにいない高校生活は楽しくないと思うとか、俺がいないくらいでそんな泣くことじゃないとか酷いこと言ってきました。こっちはそういうことじゃないってずっと言ってるのに、先輩は休みのときには帰ってくるからとかずれたこと言ってきて。そんなこと言われるうちに私はもう会えなくなる悲しさがどっかいってイライラしてきちゃって。その場でなら今日から先輩の彼女になりますって言いました」

「イライラして言うことじゃなくない?」

「そんなこと言ってくるならそこで酷いフラれ方した方がいいと思ったんです。勝手なこと言うなとかそういうのじゃないからとか。私と先輩の思っていることの違いをちゃんと伝えたかったんです。今気付いたんですけど、私が先輩のこと好きなの知ってたなら先輩は卒業してからどうするつもりだったんですかね。気づいてないフリでもしてそのまま消えてたのかな。私を捨てようとしてたんだ」

 間違えて俺の酒を飲んでないよなと疑い飲み物を確認したがちゃんとジュースだし酒もまだ俺の持っている一缶しか手がついていない。この子が酒を飲むようになったときは覚悟しておこう。

「もう過ぎたことなんでいいですけどね。先輩は言われたことにかなり困惑していたので嫌ならはっきり言ってくださいって伝えました。それでも何か言うことに迷っているみたいでした。そんな先輩をみたのは初めてで、何か良くないこと言っちゃったかなって心配になりました」

 そう言いながらも笑っているし楽しそうに話しているのでこれもまた一つの良い思い出になっているのだろう。持っていたオレンジジュースは全部飲んだようで無言で次の飲み物を持たせろとアピールしてきたので冷蔵庫からいつも入れてある缶ジュースを持ってきて握らせた。

「開けて渡してくれてもいいじゃないですかー」そうは言いつつも笑顔で開けて飲んでいる。「こっちで開けて渡すときにこぼしたら良くないからな」「別に服汚れて着替えることになってもいいですけどね」

「で、私が心配しているそんなときに先輩が返事をしてくれました。この会話聞こえてる人たちのほとんどが俺らはすでに付き合ってるって思ってたぞ、って。全く意味がわからなかったんですけど。その後、これからもよろしくって言って先輩は友達のところに行ってしまいました。そのまま放置していくのおかしくないですか?放置されたあとは一連の流れを見ていた先輩方に色々と教えてもらったのでそれはそれで満足でしたけど」

 どんな話を聞いたんだろうか。目の前の後輩はニコニコしながらこっちを見ている。

「とまあこれが私の卒業式の思い出です。じゃあ次は先輩の話を。先輩が卒業式で大好きな後輩に泣かれながら告白された話とか聞きたいなぁ」

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