桜が咲くまでにきみが  に気がついたなら

花道キロハ

桜が咲くまでにきみが  に気がついたなら


「ミオンくんがね、今日は夕方から生配信してくれるんだって!でねでね、いつもなら絶対間に合わないから見られないんだけど、今日はちょうど部活が休みなの!これって運命じゃない?」


まくしたてるように話す彼女の頬は桜色に染まっていて普段以上にかわいい。


けれどその視線は僕を見ているようで見ていない。その潤んだ瞳が見ているのは、この場にはいない、なんなら3次元の顔面すら公開していない配信者だ。


いくつかの立ち絵差分はあるが、2次元のイケメンイラストがミオンくんの姿のすべてで、もちろん彼女のスマホケースに入っているステッカーも鞄のアクスタもミオンくんである。


去年の桜が咲く頃にこのクラスで会った時に、つい「ミオンくんじゃん」と呟いてしまったのが運の尽き。


彼女には配信者推しの同志として目をつけられ、そして想いが募るたびにテンション高く推しを語る彼女の夢見る乙女の可愛らしさに、僕はいつの間にかすっかり心奪われてしまったのだ。



惚れた弱み。惚れた方の負け。

聞いたことがあるフレーズだが、当たっている。


いまも相槌を打つたびに「そうだよねっ」と弾ける笑顔を見せる彼女がほかの男を想っているとわかっていてもドキリとするし、いま彼女にいちばん近い距離にいるのは僕だと教えてあげたくなる。




でも、負けっぱなしも悔しいので。



僕は勝手に、彼女にもなんにも伝えずに、

ひとつ心の中で決めた賭けをしている。



次の桜が満開になるまでに、僕の気持ちにすこしでも彼女が気づいてくれたら。


もしくは、ミオンくんの声がどこかで聞いたことがあるって、普段の推し語りの相槌の声がミオンくんに似てるって、彼女が気づいてくれたなら。


その時は、彼女に勇気を出して告白しよう。


気付いてもらえなかったら、恋敵にはキレイさっぱり消えてもらおう。


なんやかんやと理由をつけてミオンくんは引退するのだ。そして空いた心の隙間を僕が狙う。

マッチポンプと言われようが構わない。


なんにも知らず、ほころぶ花のように彼女は笑う。

推しの命運はきみ自身が握っているのだ。

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