死んだ幼馴染は妖精となって姉妹百合を求めている
綾乃姫音真
死んだ幼馴染は妖精となって姉妹の百合キスを求めている
先週の卒業式で高校生活が終わったはずなのに、何故わたしと姉さんは制服を着て学校に居るのだろう? いくら放課後で
「さぁ! キスしちゃってよ! 死んだ幼馴染が妖精になって現れたんだよ? 願いを叶えてちょ~~だい!」
先週交通事故で亡くなった幼馴染が全長10センチほどになって、透明な羽をパタパタとしながらわたしたち姉妹の周りを飛び回っている。確かに見た目的には本人が名乗る通りの妖精だと言っても間違いではないかもしれない。容姿も生前、最後に会った卒業式の制服姿そのまんまだけどさ。しっかりセーラー服の胸にお祝いのお花までつけている。
卒業式のあとにクラス全員で集まって二次会でもしようなんて言ってたはずが彼女だけがいつになってもお店に現れない。仕方なく始まった二次会も楽しさが半減してたところに訃報が届けられた衝撃は、間違いなく一生のトラウマになると思う。でも事故の原因が、道路に飛び出した子どもを助けて身代わりになってしまったなんて聞かされたらさ……泣く以外にできないじゃん! 間違っても助かった子どもを責めるなんてできない。轢いたトラックの運転手もドラレコの映像を見た限りだと事故回避に最大限の努力をしたと聞いた。それでも恨みを向けてしまうのは仕方ないと心の中で謝っていた。
葬儀も終わり、家に帰って姉さんとふたりで泣いてたときに現れたのがこの妖精だ。そして「お願いがある」と言い出したのだ。幼稚園年少組から大親友をやっている幼馴染の最期の願いだ、絶対に叶えてあげると決意したわたしたち姉妹に告げられたその内容が――「姉妹でキスしているのを見たい」とかいうふざけたモノだったときの気持ちわかる? 普段は温和な姉さんが舌打ちしてたからね? 更に「死因が事故死だし、正直言って恨みもあるよ。いつまで自我を保っていられるかわからない」なんて言われたら拒否って選択肢もとれなかった。ぶっちゃけ脅しだろ! と思ったけど、悪霊になった幼馴染の姿なんて間違っても見たくないし、想像したくもないっていうのも事実だった。結果、わたしと姉さんはこうして彼女が望んだシチュエーションでの姉妹の百合キスを見せるために卒業したばかりの高校に侵入しているのだった。
心のどこかで、妖精でも幽霊でも構わないから大親友と可能な限り一緒に居たいって気持ちと、未来を失ってしまった大親友が最期に望んだモノを早く叶えて成仏させてあげようって気持ちがせめぎ合っているのを感じる。
恐らく姉さんもまったく同じ葛藤を抱いている。やがて姉さんがわたしを見てひとつ頷く。やろうってことだよね?
「……
姉さんがわたしの両肩に手を置いてきた。
「……姉さん」
緊張で自分の声が震えているのがわかる。目を瞑りゆっくりと近づいてくる姉さんの顔。一卵性の双子で、身長も顔もまったくと言っていいレベルで同じ相手。違い言えるのは胸とお尻のサイズくらいだった。実は1センチずつ違うのを隣に浮かんで楽しそうにニヤニヤしている幼馴染だけが知っている。
「――んっ」
「――ぁっ」
躊躇なく重ねられた唇を受け入れる。リップと姉さんの匂いが流れ込んできた。触れていたのは数瞬だけ。すぐに離れて姉さんの顔を見ると、首筋まで真っ赤になっていた。もっともわたしも人のことを言えないと思うけど。
「いやーいいモノ見たわ! 血の繋がった実の姉妹とキス! それも自分と同じ顔が相手ってどんな気分なの?」
なんか苛つく言い方してくるなぁ……特に感想なんてないっての。強いて言うなら虚無。特に感情が高ぶるなんてこともなかった。そのことにこっそり安堵しているのは内緒だ。
「……これでほんとにサヨナラなんだよね」
姉さんがしんみりと言う。だよね。自称妖精だけど、幽霊でしかない。最期の願いを叶えたら成仏して――
「次は一緒にお風呂入ってるの見たいかな」
「「――は?」」
「うん? どしたの?」
可愛く小首を傾げる妖精さん。
「……成仏するんじゃないの? わたしたちのキスを見たいっていうのが未練だったんでしょ?」
「? 違うけど。ただたんに幼馴染の美形双子姉妹がキスしてるのを見たかっただけだよ? それに成仏って……妖精にそんなのないけど」
「……待った。幽霊じゃないの?」
「最初から妖精になったって言ってるじゃん」
そういえば言ってた! ひとことも幽霊なんて言ってないや! ハッとして姉さんと顔を見合わせる。え、なに? なんのためにファーストキスを双子の姉さんに捧げたの? 姉さんもファーストキスだったはずだよ? わたしたち高校生活で彼氏なんてできなかったし。
「これからもずっと一緒に居られるよ?」
高校を卒業して大学進学を機に家を出て二人暮らしが決まっているわたしたち姉妹。そこに幼馴染の妖精っていう同居人が増えることが決まった瞬間だった。
死んだ幼馴染は妖精となって姉妹百合を求めている 綾乃姫音真 @ayanohime
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます