-いつもの牛乳-
あれはそう。母が僕にはじめてのおつかいを頼んだ時のことだった。おつかいは、「いつもの牛乳」を買ってくることだった。僕は母からもらった500円玉を握り締めて、よく晴れた冬の空。外は寒いからと、背丈に合わない大きなダウンをきて、スーパーまで歩いて行った。
お店に着くと、僕は一直線に乳製品売り場に向かった。僕は「いつもの牛乳」を探していたけれど、見つからなかった。店員さんに「いつもの牛乳」を買いたいと言ったけれど、店員さんからは、「売り切れてしまった。」と、そう告げられた。僕は困ってしまった。「いつもの牛乳」買ってきてほしいと頼まれたのに、「いつもの牛乳」が無いなんて、どうしたら良いんだろう。僕は考えた。その結果、「いつもの牛乳」ではないけれど、「たまにしか買わない牛乳」を買って家に帰った。
開口一番。僕は母に怒られた。「いつもの牛乳」が売り切れてしまっていたから、かわりに「たまにしか買わない牛乳」を買ってきたと僕が伝えると、「それならいらなかったのに」と。そう一言言われた。
次の休日、また母からおつかいを頼まれた。前回と同じ、「いつもの牛乳」を買ってくると言うミッションだった。
500円玉を握り締めて冬空をてくてく歩いて行った。
お店につくと、「いつもの牛乳」は無かった。店員さんに聞いても「売り切れてしまった。」と言われた。僕は、前回学習した。
「いつもの牛乳」が売っていない時は、何も買ってこなくていいものなのだと。だから、僕は何も買わずにお店を出た。
家につくと、僕は母に、「いつもの牛乳」が売り切れていたと伝ると、母は僕に、「代わりの牛乳は買って来なかったの?そのまま帰ってきたの?」と、問いかけてきた。僕はわけがわからず黙っていると、母はなんだか冷たい目をしていた。
次の日、母は亡くなった。僕は母の求める正解を見つけることが出来なかったから、母が自分の元から消えてしまったのだと思った。たくさん泣いた。自分の頭の悪さに涙した。そうして僕は勉強を沢山するようになった。いつの間にか学校の図書館が僕の居場所になっていた。母が亡くなった本当の理由が交通事故であったことが理解できるようになったのは、「ぶーぶー」のことを、「車」と認識できるようになってからだった。
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