-爆弾-

彼の名前は高橋くん。サッカーが上手で、青い眼鏡を掛けている。顔も格好良くて、昼休みはお友達とサッカーをする為に校庭に出ている。彼は、幼稚園のころから塾に通っていて、中学受験を控えて勉強している人だからなのか、とても頭が良い。細身で身体能力も良いから、彼は女の子界隈でひそかに人気を集めている。

私はというと、地元の保育園で育ち、大した取り柄もない。そんな私はなぜか、彼と同じ公立の小学校に通っている。なぜこんなに頭が良い人が自分と同じ学校に通っているのか。当時、疑問に感じていたが、馬鹿な私は、「さほど意味のないことだ。」と、勝手に納得していた。

 そんなある日突然、事件が起きた。担任の安田がクラスの生徒全員に対して奇襲をかけてきたのだ。忘れもしない。あれは、5時間目の国語の授業の時。安田は各生徒に爆弾を取り付けたのだ。厄介なことに、この爆弾は「時限爆弾」であった。爆弾を止めるには条件は2つ。

1つ目は、「爆弾内部に記載されているひらがなを漢字に直しなさい。」という条件。

2つ目が「制限時間内に8割以上正答率をしていること。」である。問題数は50問。つまり1問を1分以内に解かなければならない。

教室内はパニックで大乱闘が起きた。応戦できたのはごく一部の人間だけで、次々と仲間たちは倒れていく。私は意識朦朧とする中、自分の左手に鉛筆の芯を刺して、なんとか闘っていた。ただ、彼は最後まで戦うことを諦めなかった。

 事件後、ミッションコンプリートを果たしたのは高橋君を含めて5人程度であった。その他の25人は爆弾を処理出来ず、重傷を負った。私は左手の親指の付け根あたりがものすごく痛いが軽傷で済んだ。ただ、この経験が私に大きな教訓をもたらした。それは「給食をお腹いっぱい食べると眠くなる。ご飯は腹8分目まで。」ということである。後日、怪我を完治させた人から、爆弾処理訓練を行い、見事クラス全員が爆弾処理に成功した。無論、私も。

怪我が治るまで、高橋君は私の面倒を見てくれた。本当は友達を大好きなサッカーをやりたかったであろう時間に私と一緒にいてくれた。彼は私を褒めてくれた。うれしかった。みんなに好かれる彼が私の見方でいてくれたことが。一部、彼のことを「落ちこぼれ」と揶揄する人間もいた。聞くところによると彼は、小学校受験をしていたとか・・・。そこで落ちたから、しぶしぶ公立の小学校に入ってきたという。それが本当でも嘘でもどうでもよい。 彼は私の戦友なのだ。

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