自己中冒険者のカス生活
カイン・フォーター
第1話 行き過ぎたときは開き直ろう!
ここはダンジョン。
天の川銀河の太陽系の地球という星の日本という国の東京という街で発生した異空間。
中は化け物の巣窟であり…世界のどんな鉱山よりも価値のある資源と宝の宝庫。
そんな場所で活動し、死と隣り合わせの中一攫千金を成す者たち。冒険者。
私もその一人な訳なんだけど…
「う〜ん…やっちまった」
私の前には首から大量の血を流して息絶えた男の死体がある。
…私がカッとなってブチ転がした男だ。
「いや〜…でも私ばっかり悪いわけじゃないと思うんだよねぇ〜…うんうん」
ダンジョン内でタバコを吸おうが、その吸殻をその辺に捨てようがどうでもいい事だ。
だって地球環境が汚れるわけでもないし、吸殻はいつの間にかダンジョンに吸収されて消える。
それなのに、やれ『人が通る場所でタバコを吸うな』だの、『ここは公共のダンジョンだ。ポイ捨てするな』だの、『そんな事をしてお天道様に顔向けできるのか?』だの、うるさいんだからさ?
見ず知らずの人間に偉そうに講釈垂れる方が悪い。
うん。そうに違いない。
「とは言えどうしようかなぁ…死体はなかなか消えないし…バラしてその辺に撒くか?いや、面倒くさいな。放置でいいや」
冒険者は金に困ったバカか、一攫千金を本気で成せると考えてるバカか、頭とガラの悪いバカしか居ない。
こうやって死体を放置していても、そう言うガラの悪い連中に絡まれて殺されたと勝手に決めつけられるだろう。
運が良ければ魔物の仕業ってことになるし、放置で良し!
「ああでも、コイツの持ってる金目の物を盗んで置かないと、反社共がやったって思われないか。何か持ってるかなぁ?」
死体を漁って金目の物が無いかポケットやバッグ、アイテムボックスの中を漁る。
見つけたのは財布、宝石、金銀財宝、レア物らしいアイテム、ポーション、そこそこ良い武器。
「総額は150万って所か…まあ良し。何より想像以上に良い収穫があったし」
私はこの男が大事そうに胸元に仕舞われていたペンダントを掲げてニマニマと笑う。
このペンダントは中に家族の写真が入っているだけのゴミだけど…大切なのはその中身。
中には青色をした、ビー玉の半分くらいのサイズの玉があった。
これは『結界玉』と呼ばれるモノで、一人ひとつだけ持つことができ、自分だけの結界…様は自分専用の小さな世界をもつことが出来る希少なアイテム。
私も1つ持ってるけど…売ったら相当金になる事で有名だ。
コレだけで300万は堅い。
「にしても、大事に家族写真なんか入れやがって…羨ましいね。ああ羨ましい」
結界玉を抜いたペンダントの中の写真を見て、私はこの男に嫉妬する。
えらく美人な奥さんに、行儀の良さそうな娘。
そして、やたらと高そうな服を着たコイツ。
…金持ちだな?
私なんて片親家庭の中でも最底辺クラスの出身だってのに…コイツは絶対金持ちだ。
金持ちのくせに冒険者なんかしやがって…
「さすがし素晴らしい世界をお持ちなんだろうね?この結界玉の中にはどんな美しい世界が広がってるんだい?んん?」
死体を蹴飛ばしながら結界玉を睨む。
なんて妬ましい。
人生成功してるくせに冒険者なんかやりやがって…ああ妬ましい。
いいなぁいいなぁ…あああああ!!!
なんて妬ましくて憎たらしい!
ふざけんな!
ちょっとくらい私に分けてくれよ!
くれないってなら…奪ってやる。
《警告・封印が解かれます》
ああ?私はその邪魔くさい封印を解こうとしてるんだよ。
警告なんざ、余計なお世話だ!
《警告・『嫉妬』の封印が解放されました。解放率88%》
よし、それで良い。
私の中で何かつっかえが取れ、清々しい気分に少しだけなると同時に…収まり始めていた嫉妬心が再び燃え上がる。
その嫉妬は私の体から黒いオーラと言う形で漏れ出し…手の中にある結界玉を取り込む。
《結界玉の所有権を奪取しました》
ほ〜ん?結界玉を奪うのは初めてだったけど、ちゃんと効くんだ?
行けそうなら積極的に狙うのはありかも。
さてさて、コイツはどんな世界を持ってるのかなぁっと!
結界玉を握り、この玉の中にある世界に入ろうとする。
しかし、その寸前で思いとどまってます場所を変える。
「危ない危ない。危うく犯人扱いされるところだった」
結界玉は使うと結界玉の中に入れるけど、出るときは入った時にいた場所に戻ってくる。
仮に警察の捜査が始まってる中に帰ってきたら…まあ逮捕だね。
と言うわけで、場所を改めて結界玉を使う。
一瞬にして結界玉の中に体が取り込まれ…私は中にあった世界を見てまた、嫉妬心を爆発させる。
「なんて綺麗な青空。心地よい風。美しい花畑。うん、私の世界とは大違い!!」
結界玉の世界は、その人の人間性が再現される。
これほど清々しい世界と言うことは…それはそれは素晴らしい人だったのだろう。
私とは真逆の人間だ。
「あー…これはアイツが悪いわ。こんな綺麗なやつに言い寄られたら、私みたいなクソ野郎は何しでかすか分かんないもん。私悪くない。余計なこと言ったアイツが悪い」
私は泥中に生きるドブの貝。
アイツは清流に生きる清らかな魚。
ドブの貝である私は清流では生きられない。
私にとっては毒沼だ。
そんな毒を持ち込もうとしたアイツが悪いんだ。
だから私悪くない、うん。
はぁ〜!!
な~んかムカムカしてたものが取れたし、今日は帰ろう。
よく眠れそうだ。
気持ち足取りが軽くダンジョンを歩き、外へ出た私はボロボロのマンションに帰ってきて、すぐに布団へ飛び込む。
気持ちが軽いからか、すぐに眠れた。
実に素晴らしい安眠だった。
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