セカンダリー・ナンバー・フェアリィ

幼縁会

第1話

『さぁ、お前にこそ期待してるぜ俺達はッ。抱腹絶倒、前人未踏の離れ業ッ、誰もが一目すれば逃れられない異次元の御業ッ。

 その名も、Reフライング・フェアリィ!』


 爆炎が晴れ、五人バヤCなき舞台に降り立つは、ギターを片手に握り締めた少年。

 癖のあるギターの持ち手は、前出のグループに影響された若者に在りがちな癖の伝播であった。

 当然、観客席も新たな主役の出現に湧き立ち、次なる演奏を心待ちにする。が、どこか先のグループと比較して、勢いが衰えて感じられた。

 仕方あるまい。

 影響元が場を温めた後にフォロワーが顔を出した所で、印象がいいはずもない。そも、直前の時点で望むものを目の当たりにしているのだから。


「ヒナ・ロック・フェスティバルッ。ここからも更に盛り上げていくので、どうかよろしくッ。

 それでは最初はデビューシングル、『ブレイキング・バッファロー』よろしく!」


 観客越しに突きつけられる実力差から目を逸らすべく、少年はマイクへ通じてアンプを経由し、舞台に視線を注ぐ全てへ声を張り上げる。

 彼自身、理解している。

 仮に自分が観客席から楽しんでいるとして、五人バヤCの後にフォロワーが顔を見せた所で盛り上がれるかと問われれば、答えは否。むしろ落胆を顔に出し、携帯端末に手を伸ばすかどうかの方がまだ賭けとして成立する。

 だが、だが、だがしかして。

 少年は大衆からの冷めた目線に首を振り、弦を数回爪弾く。

 音声を調整し、音階を確認し、意を決する。


「では、送ります」


 大きく右手を振り上げると、弦が踊る。

 悪戯好きの妖精よろしく激しい変調と愉快な笑い声を織り交ぜた作品は、少年にとっても思い出深い一曲。

 在りし日の憧憬、理想郷で平穏を高らかに歌う小人達。

 脳裏に過った幸福を、蹄鉄を掻き鳴らす破滅が踏み躙る。

 全てを破壊して突き進むバッファローの進軍は誰にも止められない。如何に魔法に秀でた妖精といえども、落とし物を隠す程度の奇跡で数百倍を優に越す重量差を覆すなど笑止千万。

 花畑を踏み荒らし、森林を角の錆にし、そして逃げ遅れた妖精を霧散させる。

 圧倒的破壊を脳裏に連想させる技量が、少年には確かにあった。


「……」


 不幸があるとすれば、やはり順番の一言か。

 五人バヤCの後という最悪のタイミングが観客の関心を奪い、視線を手元の液晶ディスプレイへ移行させる。

 それでもなお、少年は懸命にギターを爪弾く。

 全ては最前列に立つ、たった一人の女性のため。そして会場中央で今も鎮座している本日の主役、卵のために。

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セカンダリー・ナンバー・フェアリィ 幼縁会 @yo_en_kai

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