18

「……」


「何? カッコよすぎて言葉にならない?」


 目線を下げて無言になる私を、タクは腰を屈めて、下からのぞきこんだ。

 いつかみたいに「ね?」と言いながら。



「……まぁまぁ、じゃない?」


「まぁまぁ? そっか。お世辞でも誉めないのがみちるらしいけど」


「だってもっとすごいバンド見て育ったから」


「あ、そこと比較していただいただけで光栄です」


 全然良いことなんて言ってないのに、タクが楽しそうに口許を緩めるので、私もちょっとだけ笑った。


「ホント、名前どおり二番目でいいんだね」


「はは……。ホントだ」


「いいの? 二番目で?」


「よくないに決まってんじゃん」


タクはふぅっと息をつく。


「じゃあさ……」


『もっと練習しなよ、良い線いってたと思うから』って、そう言おうと思ったのに。


「俺をみちるの一番にして?」


 私の言葉を遮ってタクがこんなこと言うから。


「……やだよ」


 私は思わず言ってしまう。


「ひでー。俺のはじめての告白なのに」


「はぁ? 嘘つき! そんなわけないじゃん。ていうかこれ告白?」


「超告白じゃん」


 タクの様子は普段の軽い感じと変わらず、本気なのかふざけているのかよく分からない。


 だったら私だって…。


「超告白って何よ。しかも絶対はじめてとかじゃないし。それに仮に本当だとしたら、なおさらイヤだけどね」


「なんで?」


「私ははじめての告白がうまくいかなかったから」


 ふんっと冷たく私は笑う。


「俺もそうなれと?」


「うん」


「ならいいや。みちるがそう言うならさ、俺は別に」


「そ? やけにあっさりしてるじゃん」


 なんだ、つまんない反応。何よ、結局からかいたいだけじゃん。


「だって、二回目の告白をすればいいだけだろう?」


「え?」


「次はうまくいくかもしれないじゃん?」


 タクの言葉に、私は少し驚いた。

 それは、私にはない発想だった。


 頑張って頑張って、うまくいくための最適な手段を考えて、それでもダメだったら諦める。失敗なんてしたくない。一回目でうまくいきそうにないなら、そもそもやらない。

 それが私のやり方。何に対しても。


 一回でダメなら二回。二回がダメなら三回。そういう頑張り方はしてこなかった。


でも、もしかしたらそういうのも有りなのかもしれない。というか、普通はそういうものなのかもしれない。


「何、驚いてんの?」


「単純だなぁと思って」


「それが一番効くって知ってるから」


 タクはへへっと笑う。


「ますますはじめてかどうか怪しいけど」


「そ? 信じるも信じないもみちる次第。とりあえず、みちるちゃんへのはじめての告白っていうのは間違いないよ」


「そういうのははじめての告白って言わないからね?」


「そう?」


 こんなの、普段の私なら呆れてしまいそうな会話だけど、なんだかタクが楽しそうにしてるから、まぁいいかと思ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る