黒幕


 薄暗い部屋だった。

 人相は分からず、シルエットしか分からない誰かが椅子に座っていた。

 彼はスマホに映る女性の画像を見ながら……にたぁ、と笑みを見せた。


「くふふ、はは……計画は順調だな……クク、くはっ。かっはっは、あーっはっはっは!! きひっ、かふっ、きぃひ! ひーひゃははっ、なーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ、いーひっひっひ、ぅひぃ、ひふっ、ふごっ」


 ――すぱんっ、と、黒幕の頭がはたかれた。

 部屋の暗幕が開かれる。太陽が部屋の中を照らした。

 ――映画撮影部の部室だ。

 台本を丸めていたベレー帽の少女がむすっとしながら。


「誰がそこまで笑えと言った」

「え、でもここに、『黒幕、笑う』と書いてあるんで」


「やり過ぎだ。というかもっと、こぼれちゃった笑い声程度でいいんだよ! なのにどうして大魔王みたいな笑い方しかできないんだッ!!」

「だって自由演技って書いてありますもん!!」

「自由過ぎる!! 黒幕のキャラ変わってるだろッ!」


「でも、控えめな笑い方だと地味じゃないですか? 印象に残らないんじゃ……」

「今はそれでいいの! いいから私の言う通りに演技して――監督は私なんだよ!?」

「はーい」


 再び暗幕が閉められ、薄暗い部屋の中で黒幕が笑うシーンが始まる。



「ふふ、計画は順調だな……こひゅ、でしし」



「――はいカット!! 控えめだけど笑い方が変!!」

「え、監督の笑い方ですけど」

「私、そんな変な風に笑ってたの!?」


 頭を抱えた監督が、苦悩の末に答えを出した。


「……今のでいいわ」

「いいんですか?」

「ええ。だって私の笑い方は変じゃないし」

「…………」


「いい? やり遂げなさい。フォローするより突き抜けてしまった方がいいわ。この映画で私の笑い方は変じゃないことを証明するのよっっ!!」


「映画のテーマ変わってるじゃん」



 …おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る