「レイン！早く回復を！」

シリウスの鋭い叫び声が戦場に響き渡った。鮮やかな銀髪が血で汚れ、通常は凛々しい青い瞳に焦りが浮かんでいる。

A級モンスターとして恐れられる「紅牙の獣王」が、全身から漂わせる赤い霧のように揺らめく魔力とともに、パーティの目の前で唸り声を上げていた。その巨体は一般的な家屋ほどもあり、鋭い紅い牙からは毒々しい液体が滴り落ちている。

勇者パーティ「輝翼の守護者」が受けた今回の討伐任務は、王都から東に三日の場所にある村を襲っていたこの獣王の討伐だった。しかし、情報よりも獣王は強かった。

「頑張ってます！」レインは精一杯の声を振り絞った。

両手を前に突き出し、青白い治癒の光を手から放出しながら、彼は最大限の集中力でパーティのタンク役であるガルドの重傷を癒そうとしていた。ガルドは先ほどの獣王の猛攻撃でほぼ致命傷を負っており、その胸には深い裂傷が走っていた。

*生命力を活性化させて……細胞の再生を促して……止血を最優先に……*

レインの頭の中では、祖母から教わった回復魔法の基本原理が次々と思い出された。彼の回復魔法は少し特殊だった。単に傷を閉じるのではなく、生命体が本来持つ治癒力を最大限に引き出すような魔法だったのだ。

しかし——

「遅い！」

シリウスが苛立ちを露わにする。

「こうなったら仕方ない。バルトス、援護を！キャロル、後方から狙え！」

パーティリーダーの指示に従い、魔法使いのバルトスが強力な炎の弾を放ち、弓使いのキャロルが的確に獣王の目を狙った。急所を突かれた獣王が激しい咆哮を上げる。

レインはなおもガルドの治療に集中していた。通常の回復士なら、表面的な傷を急いで塞ぐところだが、レインの方法は違った。彼は深部から細胞レベルで再生を促していた。時間はかかるが、治った後の回復は完全だった。

「くっ……」

全力を尽くす回復魔法の最中、レインの視界の端にシリウスが獣王に飛びかかる姿が映った。銀の剣が閃き、鋭い一撃が獣王の首筋に食い込む。しかし獣王は簡単には倒れず、逆にシリウスを巨大な爪で薙ぎ払った。

「シリウス！」

パーティ全員の悲鳴が上がる。リーダーがバッドタイミングで大ダメージを受けた。レインは動揺し、一瞬ガルドへの回復魔法の集中が途切れた。

「クソッ……レイン、お前は今すぐシリウスを回復しろ！俺はもう大丈夫だ！」

半分しか回復していないガルドが叫ぶ。太刀傷は塞がりつつあったが、完全とは言えなかった。

レインは迷った。ガルドの治療を中断すれば再び容態が悪化するかもしれない。かといってシリウスを放置すれば——

「レイン！何をぐずぐずしている！」バルトスが怒鳴った。

結局、レインはガルドへの治療を中断し、倒れたシリウスの元へ駆け寄った。しかし、その一瞬の隙にガルドが再び獣王の攻撃を受け、悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。

「ガルド！」

パニックに陥りそうになる中、レインはシリウスへの回復魔法を開始した。だが、彼の手には既に疲労の色が見え始めていた。5年間、このパーティで最後尾から仲間たちを支えてきたが、今日ほど追い詰められたことはなかった。

「魔法使いは前に出て攻撃！弓は援護！」

苦痛に顔を歪めながらも指示を出すシリウス。獣王の攻撃が徐々に鈍り始めていた。全員の懸命の攻撃が、ようやく効果を表し始めていたのだ。

レインはシリウスの傷を急いで塞いだ後、再びガルドの元へ走った。彼は意識を失っていた。

「持ち堪えて、ガルド……」

そして長い戦いの末、キャロルの放った矢が獣王の喉を射抜き、モンスターはついに轟音と共に地面に崩れ落ちた。

しかし、勝利の歓声は上がらなかった。

「全滅するところだったじゃないか……」

シリウスの冷たい声が戦場に響いた。その視線は、まだガルドの治療に集中しているレインに向けられていた。

「お前の回復が遅すぎるせいで、ガルドは二度も傷を負った。あと一歩で全滅していたんだぞ」

その言葉は、勝利の喜びよりも鋭く、レインの心を刺し貫いた。

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