二度の失敗はしたくない!衰えぬ力を求めて…

菊一文字

第1話 眠る様に死んでいく

 荻野明おぎのあきら61歳、彼は長年の疲労がポンと取れる様な

 注射などの多様により内臓はボロボロで手の施しようもなく病院のベッドで静かに死を待つだけとなっていた為、出来る事は己が人生を振り返る事だけであった。


(無茶をして来た自覚はある…だが後悔はさほど無い。

 中学までは思うままに楽しんだし卒業後の極道の世界では良いように利用された感はあるが頭の出来の良くない自分では、まあ、仕方ないだろう。

 腕っぷしはあったので完全に搾取されるだけの下っぱよりは幾分ましだったので己に腕力があった事は感謝している。

 私生活では2回程離婚をしたがどちらも子供は作れたので俺の血は他所の男よりは残せただろう。3人目の女は内縁の妻 ー真由美まゆみと言うー だが間に娘が1人いて成人するまでは育てられたのは誇りだ。

 そんな娘も売りで出来た子供ではあるが一児の母となり俺も孫の顔も見る事が出来た。幸せだ。

 惜しむらくは孫が成人するまで生きられ無いこと、歳を取って初めて分かった利用される側の人間だった事、たった一つの自分の自慢出来る腕っぷしも今では見る影も無くなってしまった事…もはや俺に生きる価値などないのだろう)

 諦観しているはずなのに、自分なりに自由に生きたとそれなりに満足してるはずなのに、魂がじゅくじゅくと膿んだ傷口のように胸の奥から腐臭を放ち、熱を帯びてズキズキと痛む

 その痛みは情念のような怒りで、身動きも出来ない己の身体を動かさんばかりにバクバクと脈打ち、利用した奴らを思うままに殴り倒し、邪魔くさい奴らを片っ端から張り倒したい。誰も俺を止めさせないーーーー

 しかし現実は弱り切ったまともに身体も起こせぬ木偶なのだ、悲しい、悔しい、現実はどうする事も出来ない。

 少し弱気な心に支配されてると娘が病室へと入って来た

「パパ起きてたの?体調どう?」

「まあ…良い方だな」

「そっか、なら良かった。最近声も弱々しかっけど今日は声もはっきりしてるしね。周りの人が悪口言ってくる症状もない?」

「ここ数日は無いな、しかしあれが幻聴だとはな…現実なのかなんなのかさっぱりだよ」

 幻聴は40代頃から現れ始めた症状だが透析治療をするようになってから覚醒剤シャブが打てなくなり、何年かしてこれが幻聴だとなんとなく理解出来るようになったが本当にはっきり聞こえるのに幻聴だとか何だかよく分からなくなる

「ママは?」

「パチンコ行ってる。負けたら昼前には来るんじゃない?」

 時間を見れば午前10:30を回った所だった

(昔はよくパチンコで負けた真由美を俺の金を無駄にしやがってと殴ったものだが何だか懐かしいな)

「ちょっと眠るよ」

「うん。お休み、また夕方に息子連れて来るから」

「ああ」


 明は静かに目を閉じると脳みそにミントを含んだ風でも吹いた様にひんやりとした涼やかな感覚が頭の奥へと流れて行くのを感じたまま深い眠りへとついた…その口元は微かに笑っている様にも泣いている様にも見えるのだったー

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