第39話 美結の証言

渉は世間話をするように、気軽な感じで美結に問いかける。


「ちょっと葵ちゃんから聞いたんだけど、美結ちゃんと、悠乃ちゃんって、彼女と顔見知りだったんだね」


「えッ……」


「私も全然知らなかったしー。教えてくれてもよかったのに。それでさ、葵とはどこで知り合ったの?」


天音はニコニコと無邪気に笑みを浮かべる。


美結から葵のことを聞き出すめ、さっき三人で打ち合わせをしておいたのだ。


渉の話に乗って簡単に演技をする天音を見て、やはり女性は怖いと感じる。


二人に囲まれ、美結の表情が引きつり、片手で顔を覆って泣き始めた。

その様子に、渉が彼女の肩を抱いて体を支える。


「急にどうしたの? 何か悲しいことでも思い出したのかい」


「中学の頃、悠乃と二人で遊んでいたことを思い出して……」


「そうなんだね。亡くなった悠乃ちゃんと一緒にいる時に、葵と初めて会ったのかな。そこで何があったの?」


「……その頃、私達、少し勝気で……買い物のし過ぎで、お金が無くなっちゃって……それで葵ちゃんからお金を借りたの……それで、お金を返そうと思ってたんだけど、連絡先を聞き忘れちゃって……本当は私も悠乃も、葵ちゃんにそのことで謝りたかったの……」


「そうなんだ。それなら僕達から葵ちゃんに説明しておくよ。昔のことだからたぶん許してくれるさ。また皆で一緒に遊べるといいよね」


「……うん……」


涙を零す美結に、渉は優しい言葉をかける。

すると落ち着いてきたのか、彼女は徐々に泣き止んだ。


美結は自分達の都合の良いように話を加工しているが、結局、中学時代には、美結と二人で街に繰り出して遊んでいて、金の持ち合わせがなくなり、丁度、都合よく居合わせた葵から金をカツアゲしたのだろう。


臆病な葵は、二人にとって恰好のカモだったに違いない。

咲良達もそうだが美結達も、外見だけ繕って、やることは結構エグイよな。


それからしばらく、俺達四人が雑談をしていると、扉が開き、美結の母親が広間から出てきた。

俺達は美結の母親に挨拶をし、それから少し会話した後に、美結と母親は去っていった。


セレモニー会館を出た俺達三人は、天音を家に送り届けるため、暗がりの道路を歩いていく。

隣を歩く渉に俺は問いかける。


「これで美結と悠乃、二人と葵との接点がわかったな」


「まさか葵が美結ちゃん達にカツアゲされていたとはね。考えてもみなかったよ。最近の女子はなかなかヤンチャだね」


「年寄り臭い言い方で誤魔化すな」


「それで三人の昔の繋がりで、何がわかったの?」


俺達が話していると、天音が首を傾げる。


そういえば天音に渉の推測を話していなかった。

俺は彼女に簡単に話を伝える。

すると天音は顔色を真っ青にし、怯えた表情をする。


「サクラは、ちょっとカツアゲしちゃっただけで、殺されたって言うの……そんなの酷いよ……」


「あくまで推測、僕の妄想だよ。ただ、葵から金を奪ったのは一回だけじゃないと思う。子供が調子に乗ると、何回でも繰り返してしまうものだからね」


「ということは、街に出る度に葵を捜して、彼女を見つける度にカツアゲしてたってことか。ヤンチャに目覚めた連中は、目の前に餌が歩いてるのに素直に素通りさせるってことはないからな」


体も小柄、その上に物静かで臆病な女子が街を一人で歩いていれば、邪な考えをするガキがいても不思議ではない。


黙って俺が考えていると、渉が片腕を上げて、手のひらを上に向ける


「まだ葵が怪異の中心だという確証は得られてない。まだ推測の段階だよ」


「じゃあ、次にどう動くんだ?」


「それは考えてある。僕は葵の家に行ってくるよ」


「この間、見舞いに行った時に断られただろ」


あの時、たぶん使用人だろう女性からは、断固として葵と会わせないという意志を感じた。

葵の父親の指示のようだから、家に入れてもらうのは難しいだろう。


すると渉がニヤリと黒い笑みを浮かべる。


「それについては僕に任せてほしい」


「わかった。じゃあ、俺も一緒に行くぞ。俺も何が中心となって心霊現象が起きているのか気になるからな」


「はい、はい、私も一緒に行くわ。悠乃が死んだこともすっごく気になるし、私や美結も巻き込まれてるんでしょ。私もその原因を知りたいわよ」


俺に体に腕を絡めて、天音はニッコリと笑う。

彼女の様子に、クククッと笑った渉は大きく頷いた。


「それなら一緒に行こう。まだ周囲で妙な現象が起きているから、できれば今日は三人一緒にいて、明日に葵の家に向かおうか」


「おいおい、変な提案するなよ。どこに泊まるんだよ。それに悠乃が死んだばかりだろ。天音が家を空けるのはさすがにマズいだろ」


「その点は大丈夫よ。悠乃を偲んで、みんなで思い出話をするって両親に話してみるから」


「楓お姉さんもいないし、今日は家で和也は一人だろ。僕達が泊っても誰にも文句を言われないはずだよな」


天音と渉がグイグイと俺を説得してくる。

その圧に負けて、渉達は俺の家に泊まることになった。


そして渉が小さい声で言葉を呟く。


「天音ちゃんが一緒のほうが都合がいい。俺達と一緒にいれば対処ができるからな」


俺達三人は天音の家に立ち寄り、天音が両親に外泊の説明をしている間、外で彼女を待つことにした。

するとポツリポツリと冷たい雨粒が頬に落ちてくる。


空を見上げると暗い雲に覆われ、それが何かを暗示しているように俺には思えた。

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