無気力症
フクロウ
第1話 志望動機とオーディション
お祈りメールだった。背中に感じた嫌な予感は的中──これで通算30件目だ。
『志望動機は?』『どんな仕事をしたいですか?』
何十回と聞かれた同じ質問を思い出し、私は呟いた。
「やる気なんてねぇーんだよ」
実際に、「やる気が感じられません」と言った面接官もいた。その通り! いい目を持ってるよ。
ベッドにスマホを投げ捨てると仰向けに倒れる。「うわー」と声を上げながら。
幼稚園の頃からそうだった。夢や目標を聞かれて〇〇ですと答えなきゃいけない。だけど、ずっと私には夢も目標もやりたいことだって見つからなかった。
高校に行けば、大学に行けば──そう自分を誤魔化して来てみたもののついに何も見つからず就活突入。
仕事をしないと生活できない。当たり前だ。でも、面白くもない人生なんて地獄。
「なんでこんなに頑張ってるんだろう」
スマホを開いた。指は勝手にSNSを開いていた。どうでもいいような罵詈雑言に、自慢ばかりのマウント、合間に友達や知り合いの就活情報。
見たくもないのにスクロールしていくと、ふと指が止まった。
『新人グループアイドルオーディション』
「夢を叶えよう? 人生が変わる瞬間?」
バカバカしい。でも、気がつけば私は広告をタップしていた。背中にビリビリと熱い何かが流れていた気がした。
*
「
書類審査を経て一次審査。
私はやる気を失っていた。私以外の応募者は、みんなやる気に満ちていてこのオーディションに人生かけてるって感じだった。
それこそ華やかでキラキラしていて──彼女らに比べると、私なんて名前負けした枯れた花だ。
「特技は……特にないですね」
「そう。じゃあ、応募した理由はなにかある?」
こうなったらもう終わろうと、正直に答える。でも、プロデューサーなのだろう、黒髪ロングヘアのその人は淡々と次の質問に移った。
出た。『志望動機』だ。薄っぺらい形だけのやる気のない言葉。
「……面白いことがしたいです。なんでもいい。とにかく楽しくて夢中になれるもの。それこそ、人生かけれるような、そんななにか」
就活ではとても言えない本音を伝えると、私は目を閉じた。──これでもう終わりだ。
……そう思っていたのに。
「最後は……カレンさん。ほら、ぼうっとしてないで立って。選ばれたんだから」
「え? なんで?」という疑問を言うヒマもなく、会場中が拍手に包まれる。私は立ち上がり、すでに名前を呼ばれた合格者たちの横に並んだ。
拍手はまだ鳴り止まない。私の横にいる子なんて過呼吸になるんじゃないかと心配になるくらい泣いていた。
愛想笑いも浮かべられず、かといって泣くフリもできず、居心地悪い気持ちのまま、拍手が終わるそのときまで私は悪い夢でも見ている気分を味わっていた。
「嫌がらせですか? それとも節穴なんですか?」
一人会場に残ったままの私は、黒髪ロングヘアの人に聞いた。
「西條よ。これからよろしくね」
「そんなこと聞いてません。なんで、私を選んだんですか?」
私は一番向いていない。特技もないし、やる気もない。真剣に臨んで選ばれなかった他の子がかわいそうだ。
何十回もオーディションを受けてきた子がいたかもしれない。これで、心が折れて諦めてしまった人がいたかもしれない。
──なのに、なんで私なんか。
西條さんはふっと微笑んだ。女の子なら誰もが憧れるようなきれいな笑顔だった。
「面白そうだと思ったから」
「はぁ?」
「それに度胸もある。名前もかわいいし」
「そんな理由で、ですか!」
「あなたも面白いものを求めてるんでしょう? 夢中になれるような、人生かけれるような」
「それは……そうですけど」
「あなたと一緒よ。かわいい、歌やダンスが上手い、トークがすごい。どれもアイドルにとって大切な資質だけど、アイドルはやっぱりファンをワクワクさせないとね。第二審査も楽しんでね」
肩をポンっと叩くと西條さんは去っていく。
アイドル? 私が? なれるわけないじゃん。
──でも、初めて私は面接を通った。その妙な高揚感がしばらく胸を弾ませていた。
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