変わらない心
ダンジョンが封鎖されている間、普段と変わらずに学校に通った。ニュースで報道される情報を確認すると、順調に鎮圧されていると書いてあるが、その裏で少なくない人数が犠牲になっている。
解決してから2日後、家を出ようとすると妹が珍しく玄関まで着いてきた。
「どうした〜?」
「いってらっしゃい!お兄ちゃん♡」
「……何も無いぞ?」
「愛しの妹がお兄ちゃんを見送りに来ただけだよ〜♡」
「……………」
「次の祝日にちょ〜と、一緒に買い物したいなぁ〜て?」
「十層を攻略したら旅館連れて行くからそれで我慢しろ」
「やった〜!!いってらっしゃ〜い!」
言い終えるとすぐに奥に戻った妹に呆れた。
手続きに来ると、ミッチェルさんが担当だった。朝早くはこっちの担当へ変更になったそうだ。
「今日もダンジョンに行かれるんですか?」
「はい」
「……畏まりました。依頼は受けますか?」
「今日は受けません。探索のみする予定です」
「ーーーはい。無事の帰還をお祈りしています」
「ありがとうございました」
受付を終えてダンジョンに向かうといつもよりも人足も少ない。ベテランの人達も休養中かな、と思いながら八層まで駆け抜けた。
レベルの確認を忘れていたが、ここまで走っても全然疲れたこともなく、むしろ準備運動を終えた感覚がする。結構レベル上がってるかもな。
この層はゴブリンの"エリート"が出現する。深層に現れる上位種よりは弱いが、通常のゴブリンよりも武器の扱いが上手い個体のことだ。探索者の登竜門と呼ばれる"エリート"は普通最初は苦戦するらしいが………
「弱い」
剣士と呼べるゴブリンを相手にしたが、抵抗させずに首を刎ねた。
「かなりレベル上がってる」
相手の剣よりも速く動け、動きもスローモーション見えた。肉体動作の精度も上がり、体を動かすのが爽快に感じる。最初はフィジカルの差でゴリ押しする倒し方をしたので、次の槍使いのゴブリンは『
感覚に"ズレ"はあるが、体の操作は自然に出来るのが違和感しかない。その後も狩り続けると鎧を着た完全武装ゴブリンも出たが、苦戦する事なく呆気なく倒した。
「不気味な色だぁ」
鎧の中心に埋め込まれていた紫とも赤とも言えない変な色の玉を取った。真核を採ろうとしたが、鎧の外し方がわからなくてこの層で一番時間を費やした。汗に蒸れて臭かった。
想像よりも速く、3時間程度で終わったのでそのまま次の層に向かう事にした。広さは一層目と変化してないとはいえ、この速さの探索を可能にするレベルの恩恵は凄いな。
「弓使いは抹殺、弓使いは抹殺」
次の層に行くと、エリートゴブリンの集団が出現した。近接だけの集団は肉弾して首を刎ねるだけで良かったが、弓使い、あれは駄目だ。精度と威力が上がってるせいで油断すると目を射抜かれそうになる。
矢もゆっくりと見えるが、集団になった事で厄介度が急激に上昇した。前回の八層でも弓使いのゴブリンは"短剣"を携帯していたが脅威ではなかった。
しかし、今回はその短剣で少しでも時間を稼がれてしまい前衛ゴブリンに追いつかれる時間を稼がれてしまう。本気で守ろうとされるとほんの数秒は経過する。
練度があるせいでその間にカバーをされてしまう。
無理やりねじ伏せたり、曲芸ともいえる動きで対処している。が、レベル差のある相手にこのままではこの先なんぞ進めない。
「ん〜〜?」
例えば不意打ちで投げナイフを投擲して、前衛を牽制して弓ゴブリンを倒すか。それとも、弓ゴブリンを牽制している間に倒すか。ただ、弓ゴブリンは他のエリートゴブリンよりも"目"が良いので半分の確率で防がれてしまう。
全力で投げればいいが、隙が大きく、前衛ゴブリン達の攻撃に当たる可能性が高くなる。前衛から倒そうとすると弓ゴブリンのせいで時間がかかる。
「ん〜ぁあ?」
カウンタースナイプならいけるかも。
「グギャアアア?!」
「ギャァ……」
「グギャ……!」
「これだな」
弓ゴブリンが矢を放った瞬間に投げると防がれる事なく当てれた。タイミングがズレるとすぐに防がれたりもするが、これまでよりも対処は簡単になった。後はどれだけ効率化出来るかだけだな。
二時間が経過して53組は始末したはずだ。最後の真核を回収して重くなったリュックを下ろした。筋力が上がって影響は少ないが、真核が大きくなって重さが増している。
仲間がいると分散できるだろうけど、報酬が減るから嫌だな。金を貯めて高校生で旅行やロマンハウスを建てるのだ!
サイドバックにある高めの保存食を食べた。栄養価も高い且つ美味さも兼ね備えたハイブリット型だ。手の半分くらいの大きさで千円もする。味も肉系、海鮮系、スイーツ系などあって一般人からも人気らしい。
今日はビーフジャーキーを持って来た。食感も味によって変わるので本当に美味い。もう一つ、ショートケーキ味を〆に食べた。
休憩後、二時間で100組付近に到達すると巨大なモンスターがいた。三メートルはある洞窟の天井に手を伸ばせば余裕で届く巨体、全身に分厚い脂肪が付いている。
「オークの幼体?」
レアなモンスターとして紹介される個体で、世界でも数箇所しか出現しないレアモンスター。オークよりも少し小柄で、遅いらしい。昔、出た動画が流行していたから覚えていた。
「ブモォ」
オークの幼体はくぐもった声で鳴いた。目も厚い脂肪で覆われているが微かに見え、そこに投げナイフを投擲したが瞼に防がれた。そのまま痛がるそぶりもなくこちらに突進して来た。
「うわぁ‥」
躱したあとも止まらずに壁に激突すると軽い地震が起きた。近付いて関節を斬ってみたが脂肪を斬るだけで血も出なかった。油が付いて柄がスベスベする。
「短剣じゃ無理だ」
鞘に納めて起き上がった敵の脚を蹴ったが、逆に跳ね返された。重そうな体がこちらに向かって倒れてきたので慌てて躱した。
動く度に洞窟が揺れて稀に足が取られそうになる。
「短剣の天敵だろ」
幸い、追い込まれないように立ち回れば大した脅威ではない。めんどくさいので嫌だが、短剣で徐々に削り取って急所を刺す事にした。最初に瞼を切り取ろうと近付くと鈍い音をした手が通り過ぎた。
「邪魔、だ!」
全力でドロップキックをするとよろめいて倒れた。その間に首周りの脂肪、瞼を1センチ削るがまだ5センチ以上ある。地道に2回同じ事をして残り2センチまでくると流石に狙いに気付いたのか、近付くと手で首と目を隠し始めた。
代わりに足の脛、関節付近、後頭部下を時間を掛けて削り取る。手で妨害してくるが、それに合わせて狙う場所を変えながら削るとやっと神経が通っている場所に届いた。
「ブボォオオオオ?!?!」
脛と関節は完全に削って投げナイフを投げると関係ないところへ飛んでいった。
「油がヤベェ」
無理やり握っていたが、離すときにあらぬ方向へ流れてしまう。足元も油まみれでオークの幼体も俺も立っているので精一杯になってきた。
その後、スケートの様にスムーズに動けるまで体が油で濡れたが30分掛けて漸く首を切り取った。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
惨状を見渡すと油と血が混ざり合って光景は悪い。匂いに関しては地獄だ。動物性の油の生臭さと血の匂いが混ざって頭が痛くなる。
それでも、やっと倒したと安心して真核を………真核?
「………………解体?」
知りたくなかった真実に気付いてしまった。その後、いつの間にか綺麗な服に着替えてダンジョンの外に居た。
「………ぁあ?何故ここに……?あれ?!」
手に集めた真核が無く、更には集めている玉も増えていない。急いで売買している受付に行くと、怪訝な目で、「先程、買取しましたよ?」と言われた。
無意識に売りに行ってたらしい。それでも不思議な玉も紛れてないか尋ねると、『忘れ物』として届けに行ったらしい。そのまま取りに行き、自宅に帰った。
二度とオークの幼体など相手にするか!
※彼は真核を売ってから二時間ほど無表情で立っていたそうです。
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