好奇心は止められない


「ここが大村ダンジョンか……デカ」


 駅から徒歩十分、マンションであれば素晴らしい立地にある『大村ダンジョン』は長崎にある十ヶ所のダンジョンの一つ。低ランクダンジョンの定番『洞窟型』だ。縦横三メートルの装飾に凝った扉があり、その手前に管理棟や休憩棟、飲食エリアがあるとミッチェルさんやバーニングが言ってた。


 最初は一層か二層しか潜らないので市販の探索者セットと短剣のみ。なんと!お値段三万円のところ!初心者支援割引で19,800円!19,800円!安い!……有名なネット販売を思い出した。中身はただの医療キット、面白みに欠ける。


 確か同期は最低ランクのDから進んでCになってるらしい。ここのダンジョン基準で十層にいるゴーレムの素材を渡せば昇格するそう。ただ、そこから罠も出てきて「本当の探索は罠が出てから」と言われている。


 手続きして、いざダンジョンへ!


 扉が開き中に進んでいくとポカポカしていた地上とは異なり、ヒンヤリとした空気が鼻腔を通る。


「地下ってこんな感じかぁ」


 人通りも頻繁なので邪魔にならないように道の端で色々見た。洞窟型名物『光る苔』は想像よりも明るく豆電球と変わらない光を放っている。何かが光る苔を削った痕跡もあるが、それでも昼間の部屋にいる時と変わらない光源が確保できている。


 深層ではこの苔が無く暗い場所もあるらしく、自前のライトとかが必要になるそう。サバイバル知識でこの光る苔を採取してライトにできるらしい。一時間しか持たないらしいけど。


 壁も土というよりも石?みたいな感覚で崩落の心配はあんまりなさそう……多分。そんな事件あまり聞いたことないから大丈夫でしょ。


 散歩する感じで進んでいると一匹のスライムが仲間になりたそうに這いずっている。


「…………」


「…………」


『ペチャ』


「うぉ!スライム踏んじまった!」


「お前これから潜るのに浮ついてるんじゃねえよ」


「すまんすまん。スライムは水溜まりにしか見えなくてよ」


「それにそれその子の獲物だぞ?」


「あっ、すまん!」


「いえ、大丈夫です。他にも居ますので」


「すまない。また会ったら飯でも奢る。その時は遠慮なく声をかけてくれ」


 謝罪を受け取ってベテランらしい二人組と別れた後、残った水溜りを見た。スライムは弱酸らしく泡を少しだけプクプクして入るがそれはただの水溜まりだった。


「…………次、探すか」


  

 『ペチャ』タッタッタ、『ペチャ』………タッタッタッタ『ペチャ』…………『ペチャ』


「やべ、楽し」


 進むにつれて視界に二匹は必ずスライムが現れるようになった。値段となる素材と真核が探索者の主な収入源になっているが、スライムは真核を砕かないと倒せない。こいつらの液体は弱酸性のせいで普通の袋だと溶けて漏れ出てしまい専用の袋か丈夫な袋でないと保存できないらしい。


 中々良い値段ではあり、アルバイトでそういう仕事があるらしい。有害な物質を出さずにゴミを処理するのに使われてるとか小学校の社会科見学で実際に見たなぁ。懐かしい。


 え?なんでそんな踏んでいるかって?梱包についてくるプチプチに似て快感だから、つい踏んでしまう。靴も丈夫な物だから問題ない。通行人に変な目で見られたが問題ない。楽しいから。

 稀に頭上にくっついていることがあるがその時はその辺の石ころで投げて落としてる。落ちた時にいい音するんだよな。


 夢中になってほど潰していると、スライムが見当たらなくなった。


「……あれ、どこ行った?」


 スライムが消えるとか聞いたことないが?今回は一人で多く潰したが、多分このダンジョンの入場者を考えるとこれ以上は潰されているはず。それにモンスターを人海戦術で殲滅した配信者が居たが、結局無理だった話は有名だ。


 ある程度満足してたので、そろそろ進もうと来た道を戻ろうとすると目の前に銀のスライmーーー


「チェストー!!」


 野球選手顔負けの投球で短剣を投げると微かに見えていた真核にクリティカルヒットした。


「我が狙いに寸分の狂いなし」


 『プルッ』を繰り返して水溜まりになかなかならない銀のスライムに近づいてみた。


「短剣は刺さってるよな〜?」


 投げた後、少し心配だった短剣も溶ける様子も無く真核に刺さって漂っていた。


「あれ〜?」


 十分たっても『プルッ』てするだけで多分生きている。サッカーボール位の大きさでプルプルしているとなぁ、とぼんやり見ていると真核と短剣以外に何かビー玉みたいな小さい物が漂っている。


 銀のスライムなんて聞いたこと無いので恐る恐る触ってみたが、スライムみたいに皮一枚溶けるか?ほどの酸性もなくどちらかと言うと、メレンゲみたいな感覚がした。


「…………」


 丁寧に出来るだけ早くビー玉を抜くと銀スライムは水溜まりになった。


「これが真核みたいな役割してた?ん〜?」


 疑問はあったが時間もいい頃合いだったので地図を見てダンジョンを出た。ちょうど昼頃で近くの店で軽く食べた。


「ちょっと余計な行動し過ぎて稼げなかったな……」


 財布の中身を見て何とも言えない顔になったが、気にせずにダンジョンに戻った。戻った頃には、バックに入れたままのビー玉の存在を完全に忘れていた。


 今回はスライムを無視してそそくさと進むと一つ目の階段があった。場所によって異なるらしいが、ここでは階段が階層の分かれ目になっているらしい。


「次からスライム以外が出るんだよな」


 少しワクワクしつつ二層目に降りると子犬の鳴き声が聞こえた。


「…………」


 少し進むとチワワの様に俺を威嚇するモンスター……子犬がいた。


「ワンワン!!」


「…………」


「グルゥゥウ!」


「……………」


「ワンwーーー」


「ーーーたりゃあぁあ!!」


「キャインッ?!」


 突然現れた男のせいで子犬はこの世を去った。私はやっていない。


「やったぞ!初めてのモンスター討伐だ!」


「うわ。リョウ、よくそんな可愛い子殺せるわね?」


「何言ってんだミク!ダンジョンに子犬がいるわけないだろ!」


「……まぁ、確かに。もし居たらその飼い主を私が殺すわ」


「だろ!」


 そう言って証拠である真核を抉り取って、ミクと呼ばれた子に見せつけている。


「まったく……あれ?」


 二人とも俺と同じ様に初めてダンジョンに潜ったのだろう、やっと俺の存在に女の子が気付いたみたいだ。


「ちょっ、ちょっと!リョウ!そのモンスター、この人が狩ろうとしたモンスターじゃない!?」


「へ?」


  少し話をすると奪ったことがわかったのか物凄く謝られた。リョウと呼ばれた男の子はミクという子にボロクソに言われて涙目になっている。


「ずみまぜん……」


「すみません。これ、どうぞ」


 そう言って、さっきの真核を渡されて二人は去っていった。犬の死体はいつの間にかダンジョンに吸収されて消えていた。


「…………行くか」




 スライムほどエンカウントしないが、一匹倒して一分も経たずに会う。まぁ、弱いからすぐ討伐出来るんだけども。種類も各動物の子供がランダムに現れるらしく、断末魔を聴くたびに罪悪感が凄い。ミニアニマルズの真核は一つ50円程度なので稼ぐなら中々の量を虐殺する必要がある。最初は既に四時間潜っているので二時間程度で引き上げようと思ったが……なんかキュートアグレッションに目覚めちゃって、いつの間にかいたわ。


 走り回って狩ったので汗が結構流れた。種類によって断末魔が違うから演奏してるみたいで楽しかった。

 これが人が持つ殺戮本能か………、真核も約301個は多分あるはず。一分に一匹しばいていたからそのくらいはあるだろう。壁際で腰掛けていたら右側から最初に会った子犬が凶暴な顔をした様な個体が歩いてきた。


「…………」


「…………ワン!…キャインッ?!」


 目が合った瞬間に襲い掛かってきたが普通に返り討ちにした。だって、顔怖くても弱いもん。


「なんか見覚えあるな」


 普通に真核を獲ったが、ちょっと頑張って人にはとても『見せられないよ///』なミンチ状態にすると、中からビー玉が出てきた。普通に目の片方がそうだった。死体で遊んでしまったぜ……。


 持ってきた布で手とビー玉を拭いてポイ捨てすると、スライムは銀色だったが犬は金色だった。


「この犬いやらしいなぁ」


 もしかしたら銀色を見逃したかもしれないが、またするのも大変なので、大人しく帰る事にした。ちなみに途中で犬を奪った二人組に会ったが、何故かドン引きして駆け足で通り抜けて行った。


 何かやばい事したっけ?



 


 





 


 


 

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