第2話 勇者
俺はなぜか切り捨てられた・・・。
「ぐはあああ!!!」
しかし、擦り傷程度であまり痛くはなかった。
「ふん、邪龍め。」
勇者はつまらないものを切ってしまったとばかりに俺から目をそらす。
「勇者様!マスタードラゴン様になんてことを・・・!!!」
その言葉に勇者は驚き振り返る。
「ん?マスタードラゴンだと?
どこにそんな聖なる龍がいる?
ここにはよこしまな目をした龍しかいないが?」
「勇者様が先ほど切り捨てたお方こそが、高貴なマスタードラゴン様にございます!」
勇者はあっけにとられる。
「なに!?
てっきり魔物だと思ってしまった!
すまない!マスタードラゴン!」
勇者はすぐに謝罪した。
「ま、まあよい。許そう、勇者よ。
しかし、勇者に斬られて、かすり傷だけとは、余の鱗は相当なものだな・・・。」
俺はスケベ心を勇者に見透かされたことよりも、自身の鱗の硬さに感心した。
「いやあ、私の剣は聖なる者には通用しないんだ。
そのかすり傷は、私に対するよこしまな感情の分だろうな。
しかし、マスタードラゴンが私になぜそのような目を・・・。」
ぎくっ!!!
そこはこれ以上詮索しないでもらいたいな。
「い、いやあ。
そんな露出した装備で大丈夫かと、少し憤慨したまでよ。」
俺はとっさに誤魔化した。
すると、その回答に勇者は合点がいった様子。
ひとまずよかった・・・。
「なるほど。心配ご無用だ、マスタードラゴン。
これは聖なる加護が付与されていてな。
露出しているように見えても、加護によって守られているんだ。
そんなこと、知っているだろう?
マスタードラゴンは全知全能ではないのか?」
ぎくっ!!!
全知全能だとお!?
そんなわけないだろう!?
「い、いやあ。
余は生まれたばかりでな、この世界のことはまだあまり知らないのだ。」
「そうだったのか。
うーむ、なんだか頼りないマスタードラゴンだなあ。」
は、はあああ!?
勇者に頼りないとか言われた!
マスタードラゴンとしての威厳がねえ!
こんなはずじゃなかったのに!
「勇者様とはいえ、マスタードラゴン様に無礼を働くのは許されませんぞ!」
大臣が口をはさんだ。
大臣、よくぞ言ってくれた!
「しかしなあ・・・まあいい。
そんなことより、私たちの村をめちゃくちゃにしたこの天空城、どうするんだ?」
大臣は少し考え、口を開いた。
「天空城の翼を直すには、人間たちの正の感情が必要なのだ。
人助けをすることで、天空城の翼は自然と直るはずだ。」
「なるほど。では、まずは私たちの村の復興を手伝ってもらおうか。
村も復興され、翼も直り、一石二鳥ではないか!」
確かにそうだな。
村を壊してしまったのは申し訳ないし、手助けしよう!
そうして、俺たち天空城の人間と、村の人間たちは村の復興に取り掛かった。
「マスタードラゴン様は作業に参加してくださらなくて大丈夫ですぞ。
長たるもの、普段はどんと構えて、いざというときにそのお力を発揮してくださればよいのですから。」
そういうものなのか。
俺、リーダー経験とか無いからさっぱりわからん。
すると、物陰から人間の声が・・・。
「けっ!マスタードラゴンとか大したことねえのな。
村を壊しておいて、自分は高みの見物ときたぜ。
何様だってんだい!」
「おいっ、声が大きい、聞こえちまうぜ!」
「けっ!聞こえるように言ってんだよ!
さ、行こうぜ!」
そうして、声の主は去っていった。
くそっ!くそくそくそくそっ!
俺、悪いことはしたよ、ああ、したさ。
でも悪気なんてなかった。
で、俺は長だから、高みの見物をするしかない。
それでこの言われよう。
納得がいかねえ!
でも、マスタードラゴンってそういうものなのかな・・・。
あーあ、マスタードラゴンの仕事、つまんねえ。
俺、どうせなら冒険者とかやってみたかった!
冒険者ギルド入ってさ、無双して有名になんかなっちゃったりしてさ。
んで、可愛い女の子侍らせてさ、悠々自適に暮らしたかったよ。
神の野郎、なにが「マスタードラゴンになれて嬉しく思え」だよ。
とんだ外れくじじゃねえの。
はあ、やべえ、文句が止まらねえ。
と、そんな文句を頭の中で言っていると、来客が。
「マスタードラゴン様!
光の戦士ルミエール殿が面会を希望しております!
いかがなされますか?」
光の戦士ルミエール?
なんだそいつ?
「誰だそのルミエールとやらは?」
大臣がすかさず説明に入る。
「ルミエールは我が天空城随一の腕利きの戦士ですな。
一度面会なされたほうがよろしいかと。」
そうか。
じゃ、そうしようではないか。
「あいわかった。そのルミエールとやら、通せ!」
「ははっ!」
そうしてしばらくすると、ルミエールとやらが面会に来た。
はあああああああ・・・。
なんということだ・・・。
う、美しい・・・。
色白白髪ショートヘア、ボンキュッボン!
背中に生えた翼から、天使そのものだ・・・。
「あら、マスタードラゴン様、ごきげんよう。
なんて可愛らしいドラゴンなの!」
ルミエールはそう言うと、俺を抱きしめた!
んん・・・!
なんだこの柔らかい感触は・・・!
そして、すんごくいい匂い!
ああ、マスタードラゴンの文句言ってごめんなさい。
俺、マスタードラゴンになれて良かったです・・・。
==== 作者あとがき ====
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