梅林にて
風鈴
第1話梅林にて
彼の住む家は、最寄り駅から丘の方へ歩いて20分かかる。バスもあるが、やたらと運賃が、高いので雨の日以外は歩いて通っている。
自宅前に着くと、何もなかった駐車場に一台の白いSUVが止まっていた。
輝は、家に入って開口一番に
「あれ何?あの車」
「おい、帰ったんだろ言うことばあるだろう」
家人は、怒りながら言う。
「おぉ、ただいま、そんでアレ何?」
「おかえり、アレは車、誰もくれる事はないから俺が買ったんだ。連休に良かったらドライブ行かんか?」
「えっ、お前免許持ってなかったんじゃ?」
「うん、持ってない、だけど、お前は持っているから問題ないだろ」
「まぁな、ってことは俺って運転手?」
「そうとも言う、この前の装丁のイラストだけどミリオンだからってお金が入ったけど、別に使いたいと思わんから」
「さすが、印税生活者だね、俺なんか毎日汗水流して営業してまわっているのに、はい、はい何処に連れて行けば良いんでしょうか?」
「白浜」
「遠いじゃん」
「高速できたから3時間で行ける」
「嘘〜、子供の頃は渋滞が凄くて半日以上かかったでぇ」
「もう、いつの話」
「両親が離婚する前」
「それって、俺に会う前だなぁ」
「まぁな、あのドライブは酷くて今でも忘れられへん、親はずーっと喧嘩してるし、
「俺が上書きしてやるよ。白浜の高級なホテルを予約してある」
「本当に?サンキュー」
「あぁ、明日朝7時には行くで」
「えぇ、はや〜」
「みなべ町に行って、
「あぁ、それはせんとなぁ、わかった7時だよな、寝坊するなよ」
「それはお前だろう」
輝は、自室に行った。
リビングには、
次の日7時に昇はお弁当を作って車の前で待っていた。この車は輝が、カッコいいって言っていたから買っただけで、自分の好みじゃない。
輝は、クラス?同級生?全校で一番の人気者で頭もそこそこ良くて、みんなのリーダーだった。転校生で、大阪に初めて来た父子家庭で貧乏だった昇は、何をさせても鈍臭くていじめられていた。輝は、いじめっ子からいつも庇ってくれた、昇とってはスーパーマンで、憧れであった。
小学校の運動会のPTA競技で輝の母親と昇の父親が、二人三脚をして意気投合するとあっという間に結婚した。俺は、大好きで憧れの存在である輝と兄弟になった。その後、父親の絵は母親との結婚後に少しずつ注目され始める。今や売れっ子画家だが、人付き合いが頗る悪いので母親が居ないと何もできない人だから今は、母親の仕事について行っていて現在のところパリに住んでいる。
だから、この大きな家には俺と輝しか住んでいない。輝の兄である智兄は、仕事の関係で東京にいる。
「おはよう、休みに7時はキッツイな」
「おはよう、これおにぎり、さっきまで寝てたやろうから、はい」
「さっすがー、にいちゃんは違う、ありがとうございます」
それから、白浜に向けて出発した。途中のみなべ町は、梅が真っ盛りに咲いている。町中が梅の花の匂いに包まれていた。
「へぇ、ここがみなべ町なんだな、すっげい甘い匂いだな」
「梅の花の香りだよ」
墓参りをして、そこから少し登ったところにある梅林でお花見しながら弁当を食べる。
「ここもいい匂いだ」
「ここは、梅の精が棲む林って言われている所だよ」
「へぇ、梅の精か、妖精のように小さい子どもか?」
「ちょっと違うかな?多分見る人によって男だったり女だったり子供や老人にも変化するみたいだよ。俺が、ここに住んでいた頃は祖父が、春になると連れて来てくれてた。祖父は会ったことがあるって言っていた。祖父の場合は青年だと言っていた」
「えっ、マジな話なんか?」
「真面目な話だよ。祖父の知り合いで友達だと聞いた。祖父が、ここに住むきっかけだったと聞いた」
「そうなんだ、お前は話しをした事があるんか?」
「俺はある。俺のお袋は、田舎暮らしが嫌だと言ってある日突然離婚届をちゃぶ台に置いて出て行った。親父は、地元の広告代理店で働いてイラストやパンフレットの編集なんかの仕事をしていた。その広告代理店の社長が、親父が書いた作品の版権を自分の名前に変えてしまった」
「それはヤバいじゃん」
「親父は描くのが好きで、版権って何って言うぐらい何にも知らなかった。だから、社長の不正なんて知らなかった。知ったのは、その社長がそれらの版権を担保に金を借りて出奔してしまった時だった」
「うぇー、それ智兄に言えば、一発で解決してもらえる」
「そうだね、その頃智兄はまだ小学生で親父とは知り合ってないけど今だったら、即解決だろうなぁ。だけど、社長は保証人の欄に親父の筆跡を真似て書き、印鑑も机の中にある物を勝手に借りて借用書に使っていた、あっという間に親父は借金まみれになった。借金は、祖父の知り合いが中に入って利息はなくなった。元金は返す事になって、祖父が、ここ一帯の梅林を知り合いの梅干し農家に売って金を払ってくれた。その春の走りにここで祖父は心筋梗塞で亡くなった。親父は自分が殺したと思い詰めて俺を連れてここに来たんだ。多分死ぬつもりだったと思う。だけど、あの小心者のあの親父が自殺は無理だった」
「父ちゃんなら無理だろう。だけど、あの巨匠にそんな秘話があったんだ」
「その時に、俺は梅の精にあった。彼は、俺にお前は何か願いはあるかって聞いた。俺はまだ幼稚園児だから、お父さんの絵が好きだから、沢山の人に見てもらいたいって言ったら、自分の事はないのか?」
「そうだよ、願い事なら自分の事だろう」
「お前、幼稚園児が思いつくのは自分より好きな人の事だろうだから、ないって言った」
「そうとも言えるか」
「それから、しばらくして、親父が、祖父の家も売れたからもうみなべはもういいかって大阪に出たんだ」
「その梅の精の妖精がおったから父ちゃんは巨匠と呼ばれる程の画家になっただろうなぁ。お袋と一緒にパリで暮らしてもう5年か」
「今年は、4月に智兄と珠代さんの結婚式に帰って戻るって」
「珠代さんか、アレは凄い女だよな、あのヤクザ一歩手前の兄貴を更生させて、元々頭の良い兄貴を勉強させて大学に入れて、弁護士になるまで、養ったんだから、そして自分は警視正様だ」
「それがあるから、智兄も頭が上がらないんだろ」
「だけど、珠代さんに兄貴が巡りあったのはお袋達が、パリに行くかどうかで迷っていた時に、みなべのお墓参りに行った後だったって思うと結構御利益があるんじゃない」
「そうかもしれない、あの時お母さんも仕事で煮詰まっていたから親父が心配していた。気分転換にって墓参りしたんだよ」
「よーし、俺も妖精にあったら、願い事をするぞ」
「何?」
「俺は、昇が好きだ、お前と一生一緒に暮らせるように頼もう。そして、その証としてお前にこれをやる」
輝は、顔を真っ赤にして白い箱を昇に渡す。
昇は、心臓が口から出ていきそうになりながら箱を開ける
そこにはシンプルな指輪があった。
昇は、輝にしがみついて一言
「ありがとう、はめて」
そして、昇も妖精にあったら頼むつもりだった事を心で言う
「輝とずーっと一緒にいたい」
梅林にて 風鈴 @Fu-rin00
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