第4話 そんなのありません

 最近、テレアポとか訪問とかの詐欺さぎ業者、多いじゃないスか。

 やる必要ないリフォームとか、相場より激安で貴金属買い取るとか。

 そういう感じので、屋根が壊れてるっておどしてくるの、あるんスよ。

 ――そうそう、近くで工事してたら偶然気付いた、とかそんな手口で。

 でね、それ系のインチキ業者がウチの実家にも来たらしくて。

 

 上手いなぁ、と思うのが、そいつらのセールストークっスよ。

 もうダメになってる、すぐに修理しないとマズい、なんてのはナシで。

 現状は問題ないけれど、いつ壊れてもおかしくない、ってさぶって。

 そこから、台風直撃や集中豪雨の時に限界になるかも、みたいに言うんス。

 そんな状況で壊れるってのを想像したら、やっぱ不安になるでしょ。

 だから、お袋も見事に引っかかって、オレに相談してきたんスよ。


 でもまぁ、契約前に相談してくれて助かった、っていうか……

 黙って工事させてたら、完全に無駄な金を使わされてたワケで。

 その辺も色々ひっくるめて「これは詐欺だ」って説明したんスけど。

 お袋は「大雨で屋根が壊れる」って不安がどうしても消えないらしくて。

 しょうがないんで、オレが屋根の状態を確認するハメになったんスわ。


 つっても、オレ高いとこ苦手なんで、自分で上がるのはムリでしょ。

 じゃあ、まともな業者に頼むかってなっても、それはそれで金がる。

 どうしようか考えてたら、職場の後輩が使えそうなの持ってたな、って。

 アレっスわ、空飛ぶラジコンみたいな――あ、それそれ、ドローンっての。

 それで、写真とか動画とか撮れるって言ってたんスよね、そいつ。


 貸してくれって頼んだけど、操作が難しいとか何とかで断ってくるんス。

 だから、先輩が困ってんのにそんな態度はないだろ、ってガチ説教して。

 休みの日に実家まで付き合わせたんスよ、ドローン持ってこいって言って。

 まぁ、手間賃代わりに酒はおごったし、実家は埼玉だけど車で一時間だし。

 こういうのは、同僚として持ちつ持たれつ、ってやつっスよね。


 んで、そのドローンで屋根全体を撮影して、その映像をチェックして。

 それを三回繰り返してみたけど、屋根はどこも壊れてないし異常ナシ。

 もうフザケんなよって話で、オレも後輩も動画見ながら半ギレっスよ。

 もっとフザケてんのが、実際は屋根を見てないのがバレバレってことで。

 だって、屋根にこう、デカデカと変な模様が描いてあるんスよ?

 そんなエグいのあったら、まず「これ何スか」ってツッコむでしょ、普通。


 ――や、お袋も親父も知らないって言うし、俺も当然知らないんスよね。

 あの鳥避けの風船みたいなのを、もっとカラフルにしたような……目玉?

 そんな感じのが屋根にドーンと描いてあったけど、マジ意味不明で。

 屋根なんて見ないから、前からあっても気付かなかったんスね、たぶん。

 家を建てた大工のイタズラ……だとしても、二メートルくらいの目玉って。

 え、その動画っスか? スマホに入ってるんで出ますよ……ホラ、これ。


(時代)現在 (場所)埼玉県 (話者)20代男性・清掃業

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